第21回 データを使ってビジネスをサポート!データサイエンティストの仕事とは?

データを使ってビジネスをサポート!データサイエンティストの仕事とは?
Seattle IT Japanese Professionals

この方にインタビュー:
杉原 亮(すぎはら りょう)さん
東京大学、同大学院卒業後、日本 IBM に就職。その後、カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学し、コンピュータ・サイエンスを専攻。Ph.D.を取得し、同大学で2年間のポスドクを経て、2011年に Amazon.com に入社。2014年に Microsoft に転職し、現在シニア・データサイエンティストとして勤務。(Ryo Sugihara

データサイエンティストという職業をご存知ですか?実はこの言葉は2007年にできたばかり。いったいどのようなお仕事なのか、Microsoft 本社でデータサイエンティストとして働く杉原亮さんに伺いました。

データサイエンティストの仕事とは?

データサイエンティストとは何ですか?

「データサイエンティスト」という肩書きはすごく広く使われていて、仕事を一言で説明するのは難しいのですが、「データを基にしたビジネス上の決断を支援する仕事」というのが、間違いのない答えではないかと思います。

私自身はマイクロソフトが提供する検索エンジン「Bing」上でA/Bテストを行うためのプラットフォームを作ったり、そこで得られたデータをどのように解釈するかのサポートをやっています。A/Bテストというのは、ウェブサイトを開いたユーザをランダムに2つのグループに分け、異なるバージョンのページを提示して、どちらの方が効果的かを測定する実験のことで、グーグル、アマゾン、フェイスブックをはじめとする多くの会社で開発の手法として利用されています。

ちなみに私たちが分析に利用するBingのログは、1日あたり数百TB(テラバイト)にも及びます。(「テラバイト」とは情報量の単位のことで、1TBは1000GBに値します。ヒト一人が一生に触れられる情報量は約1TBだそうです。)

もともとデータサイエンティストを目指していたのですか?

データサイエンティストをもともと目指していたわけではありません。そもそも大学を出たころにはそんな言葉はなかったですから(笑)。

今まで大学でも会社でもいろんなテーマの研究開発をしてきましたが、前職のアマゾンでは、リサーチ・サイエンティストとしてサプライチェーン最適化に関わっていました。サプライチェーン最適化とは、商品の仕入れから在庫管理、そしてその商品が消費者に届くまでの一連の流れを効率よく行うことを目的としていて、私は主にどこの倉庫にどんな商品を配置するべきかを数理モデルを使って最適化する研究をしていました。

マイクロソフトのチーム構成について教えてください。

現在私たちのチームは80人ほどで構成されていて、半分がソフトウェアエンジニア、10人弱がPMで、30人ほどがデータサイエンティストです。

今はチームとして、Bing 以外のマイクロソフトの製品にもA/Bテストを導入していく活動に力を入れているので、それに携わっているデータサイエンティストが多くなっています。

製品開発において、新しい機能を追加する際にA/Bテストによって効果が認められたもののみをリリースするという手法は、プランを立ててスケジュールに従って開発してテストを経てリリースして万歳、という従来の手法とは大きく異なります。

A/Bテストに必要なデータが取れる環境を整えるという実際的な問題と同時に、A/Bテストに基づく開発が有効に機能するためには、パートナーの部門内のカルチャーを変える必要があるという点で、現在は人手と時間のかかるフェーズにあると言えます。

データサイエンティストに必要なスキルは何ですか?

最初にあったように「データサイエンティストとは何なのか」自体が答えにくい質問なので、必要なスキルも難しいのですが、こちらのウェブサイトでも書かれているように、数学/統計とプログラミングに加えてビジネスの理解というところかと思います。

それらの基本的な部分を押さえた上で、加えて何か「尖った」部分を持っていることが、成功するのに必要なことだろうというのは同僚を見ていても思います。また、それとは別に、統計の専門家でない人たちに対して、A/Bテストの方法や結果の解釈についてわかりやすく説明できるコミュニケーション能力が必要です。

データサイエンティストに限りませんが、歳を重ねても第一線にいるためには知識をどんどん入れていかないといけない、勉強しなければならないと思います。今はcourseraedXなどでオンラインのコースが充実しているので、時々自分の興味のあるコースを探して勉強しています。

データサイエンティストは現在人気のある職業なので、提供されているコースも非常に多いのですが、一方で今のような状態が将来にわたって続く保証はまったくないので、流行に流されすぎることなく、この先どんなスキルが重要になるか、自分はどんな分野で「尖った」スキルを持てるか、といったことを考えて勉強する必要があると思います。

データを使ってビジネスをサポート!データサイエンティストの仕事とは?

杉原 亮さん

幼少時代から現在まで

幼い頃、パソコンって面白そう、とは思っていました。確か小学校の低学年の頃、何かの本に載っていたプログラムをノートに書いて町の電気屋さんに行き、そこのパソコンを使って動かしていた覚えがあります。

でも、パソコンが欲しいと両親に頼むと、どうせ使いこなせないから、と代わりにファミコンを買ってくれました(笑)。

その後、大学生になるまでコンピューターには縁がありませんでした。

大学でも会社でもですが、いろいろなことの研究開発をしてきました。日本の大学・大学院では、工学部なのに脳の研究をしていて、被験者を使って実験するような医学寄りのものでした。その研究室は「何となく面白そう」という程度で選んで、実際に研究は楽しかったのですが、本質的に未知のことがあまりにも多いので自分が真理に近づいているのかどうかよくわからない、という気持ちがあって、仕事としてはもうちょっと「固い」ことをやりたいと思うようになりました。

それで IBM の研究所に就職することにしたのですが、入ってみると、周りの人の知識の多さ、頭の良さに衝撃を受けて、自分にはコンピュータ・サイエンスの知識と理解が圧倒的に足りていない、ちゃんと勉強したい、と思うようになりました。

そういう経緯で留学することにしたのですが、ここでも最終的な研究テーマにたどり着くまでにはかなりの回り道がありました。アカデミックな研究職で生きていこうかと思ってポスドクもやったのですが、結局アマゾンに就職して、また大きく研究分野を変えることになりました。その後、現在のマイクロソフトに移りましたが、今の仕事はアマゾンでの仕事とはほとんど関係ありません。

こうして見ると、節操なくいろいろと渡り歩いているようで、実際その通りなのですが、一つの仕事のために勉強したことが後になって役に立ったというのはいくつかあります。

例えば、現在の仕事は統計の知識が必要ですが、それはもともとIBMでの仕事を通して学んだ部分が大きく、アマゾンでの仕事に必要だった数理最適化の知識は、主に留学中の研究で勉強したものでした。

どんなスキルがこの先重要になるかを考えて勉強する、という話をさっきしたばかりですが、一方でこんな風に将来何が役に立つかわからない面もあって、自分のように飽きっぽくて好きなことしかできない性格の人には、損得考えず、興味のままに(あるいは必要に応じて)勉強することも大切かもしれません。

学生時代に学校で勉強しておいた方がいいことは何だと思いますか?

数学は大事だと思います。というのは、後から勉強しようと思っても一番身につきにくいのが数学だと思うからです。例え高度な数学を仕事上で使わないとしても、筋道を立てて論理的に考えること、あるいは曖昧な問題を「解ける」形に落とし込んで解決するといったことには、数学的な考え方が役立つと思います。

ただ、そういうものとは別に、先ほども少しお話しした通り、いろいろ広く知っていることは強みだと思います。「Aの専門家はたくさんいる。Bの専門家もたくさんいる。だけどAとBの両方に詳しい人はあまりいない」といった状況は結構あって、現在のようにいろんな分野の境界領域で新しいものが多く生まれている時代には、そういう「組み合わせ」がものを言うことも多いのではないかと思います。

日本の職場とアメリカの職場の違い

日本の職場とアメリカの職場の違いはありますか?

大学にいた期間が長いので、日本でもアメリカでもあまり長い間仕事はしておらず、きちんとした比較はできないのですが、私にはアメリカで仕事をする方が合っているのではないかと感じています。

そう感じる理由の一つには年齢のことがあります。私がアマゾンに就職したのは37歳の時だったのですが、日本だとその年齢で直接的な業務経験なしの新入社員というのは難しいのではないかと思います。

アメリカでは「年齢に応じた役割」という考え方は日本に比べて遙かに希薄で、現にアマゾンでもマイクロソフトでも上司は自分より10歳くらい下で、それは別に珍しいことでもありません。そんなふうに年齢を気にせずに働ける環境は、特に私のようにある程度年をとってしまった身にはとても心地よく感じます。

また、年齢のこととも関係しますが、アメリカの会社では「上」の立場にある人が偉そうにしていないというのもあります。アメリカの会社では、マネジャーは「マネジャーという役割を持った人」であって、他のチームメンバーより偉いわけではない、というのがいろいろな場面で感じられます。

私は偉そうにしている人、特に年齢や肩書をもとに偉そうにする人は大嫌いなので、マネジャーやそのマネジャーに向かって本当に対等に物が言える現在の環境は気に入っています。

働く上で一番大切にしていることはなんですか?

自分にしかできないことをする、というのは優秀な人たちの中ではなかなか難しいのですが、他人の考えないことを考える、ということを心がけています。

具体的に言うと、こんな感じです。さっき、私たちのチームはマイクロソフトのさまざまな製品の開発にA/Bテストを導入する業務を積極的に行っているとお話ししました。でも、主要な製品でA/Bテストに基づく開発が定着した後、我々のチームがどういう役割を担うべきなのかは不透明だと思っています。自分としてはその状況を見越して、A/Bテストをより安全に信頼できる形で行い、より迅速な製品開発を行うためにはどのような機能が必要か、蓄積された実験のデータから今後に活かせる知見を得るために何が必要か、といったことを考えています。

あまり先を見た仕事ばかりやっていると良い評価につながりにくいというリスクはあります。それでも、自分が重要だと信じて細く長くやってきたことがようやく最近周りにも重要性がわかってもらえて動き始めたりしていて、こういうのが好きだなあと思います。

貴重なお話をありがとうございました。

取材を終えて:
データサイエンティストと聞くとデータを扱う仕事ということはわかっていたのですが、具体的なことはわかりませんでした。でも、杉原さんにお話を伺って、具体化することができ、そのお仕事に魅力を感じました。 これからもっといろいろ知りたいです。

私は現在大学3年生で、もうそろそろ就活をしなければなりません。日本で就職するのか、海外で就職するのか迷っていました。しかし、杉原さんのお話を聞いて、まずはやってみないと、日本と海外のどちらが合っているかなどわからない、とにかく自分のやりたいこと、興味のあることを追求してみようと思いました。

取材・執筆:畑中ひらり
琉球大学理学部海洋自然科学科生物系3年次
2015年4月から1年間にわたりシアトルに留学し、2015年9月から2016年3月までSIJP学生部キャリア部門、PR部門に所属していた。SIJPではアメリカで活躍するたくさんの社会人の方のお話を聞き、自分の視野の狭さや固定概念に気づかされる。日本帰国後には復学し、所属自分の学部での研究だけでなく、幅広く、分野を超えて日々勉強中。教育(特にキャリア教育)に興味がある。

掲載:2017年2月

この記事は、参考情報の提供のみを目的としており、法的その他の専門的助言を提供するものではありません。この記事に記載する情報に基づくいかなる行為およびその結果について、筆者および SIJP は一切責任を負いません。また、掲載内容は対談者個人の見解であり、所属する企業を代表するものではありません。

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