第18回 「エンジニアリングもマネジメントも」 開発マネジャー(Developer Manager)の仕事とは?

Seattle IT Japanese Professionals

この方にインタビュー:
田中 盟人(たなか あきひと)さん
日本で中学卒業後、渡米。アイダホ州で高校卒業後、ユタ州のブリガム・ヤング大学でコンピュータ・サイエンスの学位を取得。現地企業にエンジニアとして就職したが、ドットコムバブルの流れに乗りシアトルのスタートアップに転職。2002年より Amazon でプライム、キンドル、Flex などの立ち上げにエンジニア及び開発マネジャーとして関わる。現在は開発マネジャーとして2016年初頭より Amazon Japan に駐在中。2015年まで SIJP 副会長を務める。

シアトルの Amazon 本社から Amazon Japan に開発マネジャーとして駐在し、日本で開発チームを率いる田中さんにお話を伺いました。AmazonAmazon Japan の両サイトで買い物を楽しむ方はお気付きかもしれませんが、Amazon Japan には何とポイント制度があります!そのポイント機能は田中さんチームが開発担当しています。26年ぶりに日本での生活を再開された田中さんに、日本とアメリカで違いを感じる点についても伺いました。

エンジニアリングもマネジメントも。開発マネジャーって何?

開発マネジャーとしての業務内容を教えてください。

Amazon では、インターネット上でお客様に様々なサービスを提供していますが、それを考案するチームと、実際にそれを開発するチームが別々に存在しています。開発マネジャーは文字通り、開発チーム内で Software Engineer(SWE)をマネジメントするポジションです。キャリアパスとしては、まずエンジニアとしてスタートして開発マネジャーになる場合もありますし、いくつかのポジションを経験した後でなる場合もあります。管理職ではありますが、テクニカルなバックグラウンドは必須です。

開発マネジャーの具体的な業務内容は多くありますが、ここでは主な3つをご紹介したいと思います。

  • 仕事量と期間の見積もり

    別チームにてサービスが考案された後、具体的な開発方法、開発期間、必要となる人数の見積もりを行います。この際、単に言われた通りに見積もりをするだけでなく、お客様やAmazon にとって意味のある機能であるかビジネス的な側面からも考慮・検討し、反対意見も含めてフィードバックします。できないと判断して「No」と返すこともあります。反対する場合、数字を使って具体的に説明できることが重要です。

  • SWEの育成・管理

    チーム内の SWE の能力や興味を把握し、今後伸ばすべき能力を考慮した上で、SWE をプロジェクトに割り当てます。SWE とは週に1回、カジュアルな雰囲気で1対1のミーティング(*1 on 1)を行い、仕事の課題や能力向上方法、今後のキャリアや要望を把握しています。業務だけでなく、生活や子供のことも話し、状況に応じて働きやすい方法を模索します。

    SWE が十分な休息を取れているかについても気を配ります。もし週末に仕事をしていたのなら、なぜ業務する必要があったのか確認しなくてはいけません。オーバーワークしていると、そもそも体に良くないですし、判断ミスも増えますので、チームとしての生産性が落ちてしまいます。SWE の能力を最高の状態でフルに発揮してもらえるように環境を整え、チームのパフォーマンスを最大化することも開発マネジャーの任務です。
    * 1対1のミーティング(1 on 1: 参考リンク): 定期的に開催するマネージャとの2者対談

  • 技術の方向性を示す

    プロジェクトにおいて、技術デザインの課題点を確認して、チームが正しい方向へ進んでいるかレビューし、コメントします。過去のエンジニアとしての自分の経験が活きてくる部分です。新しい技術がどんどん出てくるため、そのキャッチアップも重要です。

開発マネジャーのやりがいやうれしいことはどのようなことですか?

個人的には部下である SWE の育成が大きなやりがいです。SWE と能力向上プランを一緒に考え、定期的に内容を確認します。SWE に伴走しているコーチのような感じでしょうか。SWE を上位のポジションへ昇進させることも任務です。彼らが成長していく姿や、昇進して活躍する姿を見ると、本当にうれしく感じます。

製品開発を進めるため、他チームとの交渉も多いです。1か月も繰り返し折衝することや、インドに出張して1週間ずっと現地エンジニアを説得したこともあります。話が合意に至ったときは非常に達成感がありました。これはエンジニア時代には味わえなかった醍醐味です。

開発マネジャーとして大切にしていることはありますか?

自分としては、機能の品質が中途半端な状態で製品リリースしないこと、エンジニア時代の経験から、きちっと仕上げていくことが重要だと考えています。後で問題が見つかるとコードの書き直しをするリスクがあり、より大きなコストがかかりますし、お客様にも迷惑をかける結果になります。他チームと衝突することもありますが、この点は自分の中にあるスタンダードを下げることはできません。

夢を追いかけ高校からの渡米

田中さんはそもそもどのようにしてアメリカへ来られたのでしょうか。

小学生のとき、マイコンやPCで、意味もわからずプログラムをコピー&ペーストして、音を鳴らしたり、絵を描いたりして遊んいて、将来はコンピュータ関連の職業に就きたいと考えるようになりました。

中学を卒業したら商業高校の情報科でコンピュータを学ぼうと考えていたのですが、「普通科高校へ進学し、大学へ進めば、そこで好きなだけコンピュータを学べる」という理由で先生に反対された経験があります。しかし、私は大学まで夢を先延ばしすることができなかった。「コンピュータといえばアメリカ」と思っていましたので、調べてみると、アメリカの高校では大学のコンピュータのクラスを受講できる制度があることがわかりました。ここからは英語の猛勉強です。勉強の甲斐があり、無事、アメリカの高校に合格でき、私のアメリカ生活が始まりました。当時を考えると親がよく許可したなと思います。感謝しています。

アメリカの高校生活は好きな教科を受講できて楽しかったでしょうね。逆に高校生活で苦労されたことはありますか?

高校生活は楽しかったですね。苦労した点はやはり英語でのコミュニケーションでした。高校生なので周りの友達と一緒に遊びたい。しかし言葉が十分に伝わらず残念な思いをしたこともあります。英語を学習したモチベーションは「友達と遊びたい」でしたね。

具体的な目的があると学習もはかどりますよね。どのような方法で学習を進めたのでしょうか?

学習方法はまったくオーソドックスなものだったと思います。知らない単語にあったら何でも辞書を引いていました。発音習得のために、学校の友達の口の形を思い出しながら、鏡の前で自分の口の形を矯正して練習したこともあります。高校時代は地元の家庭にホームステイしていたのですが、そのお宅の6歳、5歳のお子さんと遊びながら、英会話を習得しました。彼らと話をしていて変な発音で笑われることもありませんでしたし、気兼ねなく思い切り会話を楽しめました。

アメリカでの就職、スタートアップの経験、そして Amazon へ

大学卒業後はそのままアメリカに残りましたか?日本へ帰国することも考えたのでしょうか?

大学でコンピュータ・サイエンスを修めた後は、日本人ですし、帰国して日本企業へ就職することは考えました。当時、自動車にカーナビシステムが搭載され始めており、興味のある分野でしたので、ボストンキャリアフォーラムで日系自動車企業も受けています。しかし、学生時代にアメリカ企業でインターンシップをした経験も含めて検討した結果、ITは技術でも産業としてもアメリカの方が先を行っていると判断し、アメリカのローカルIT企業で働くことを選択しました。

米国で IT バブル時代にスタートアップで4年間勤務後、2002年に Amazon へ移り、現在まで勤務を続けています。Amazon でいくつかポジションを経験し、2年半前に開発マネジャーになりました。

企業として Amazon の良さを感じるところは何でしょうか?

Amazon はお客様や利用者の満足を強く考える文化を持っています。Amazon のオフィスは世界中にありますが、この文化はどこのオフィスであっても共通です。同じ価値観を共有していることは、インターナショナルに働く上で働きやすさにつながっていると思います。

これは、一般向けに販売している製品だけではなく、Amazon 社内で利用するシステム開発においても同様です。社内システム利用者が必要なもの、使いやすいものを提供していくことに強くフォーカスしています。

Amazon は社員がチャレンジする機会を多く提供してくれる企業だと思います。チャレンジの達成は当然大変なこともありますが、社員が互いにアイデアを出し、サポートし合い進めています。アイデアが実際に製品やサービスとして反映されるときの気分は格別ですよ!今回日本で業務をしている理由の一つは、Amazon ポイントの開発があります。日本ではポイント制度がポピュラーであるため、その開発にチャレンジした良い例であると思います。

ご自分の就職、転職や勤務を通じて、今後就職する学生にコメントはありますか?

まずは自分の知識やスキルを磨くこと。大学で自分の専門を伸ばしてください。

就職においては企業が提供するインターンシップをぜひ活用してください。学校で得た知識を実社会でどのように活用できるか見えてきますし、業務を体験することで、自分自身の得意なこと、やりたいこと、好きなことが、より実感を持って見えてくると思います。私もインターンシップの経験から就職を決定しました。就職してから転職することも選択肢としてありますが、せっかく企業がインターンシップを提供しているので、ぜひ活用して実体験を得てください。

米国外の学生も、Amazon、Google、Microsoft などのインターンシップに参加しています。日本の学生も参加可能なものを探して、アメリカ企業でインターンシップをすることを考慮して良いのではないかと思います。

時間を作り出し、最新技術のキャッチアップ

Amazon のような IT 最先端企業で、田中さんは周囲のチームや SWE に対して技術の方向性を示す役割にあるわけですが、最新技術をどのようにキャッチアップされているのでしょうか。

一つは技術書を読み込んで理解していくことです。ただ、対象となる技術分野は幅広いですし、時間も限られますので、深さと広さをバランスさせる必要はあります。私は通勤中にキンドルで技術書を読んでいます。満員電車でも片手で読めるのがいいですし、タブレットに何冊も本を入れていつでも読めることは素晴らしいです。アメリカの Amazon に登録しているキンドルですので最新の技術書が日本でも直ぐに手に入るのが気に入っています。他には、Amazon 社内で開催されるトレーニング・イベントへの参加もあります。開催場所はシアトルなので、シアトル勤務のときはその場で質問することもできたのですが、日本へ駐在してからは、時差のためライブでは見られず録画で参照しなくてはならないのが残念です。

開発マネジャーとしてご多忙と思いますが、どのように時間を確保しているのでしょうか。業務効率化のポイントはありますか。

業務は優先度をつけて進める、周囲に会議に参加しない日時を表明したり、時間的に無理なことは無理とはっきり伝えることで自分の時間を確保しています。また、早朝から業務を進めることは自分にとって効率的に仕事を回す有効な方法になっています。

日本のイメージと実際のギャップ

26年ぶりに日本で生活してみて感じるところはありますか?

自分が生活していたころと大きく変わっていて、すべてが新鮮に感じます。自分が日本人であるからかもしれませんが、やはり日本の食事はおいしい。寺社や温泉巡りなど、日本文化を満喫しています。よくよく思い出すと日本の年間の祝祭日がアメリカに比べて多いのもうれしい発見でした。

通勤環境はアメリカの方が良いですね。満員の通勤電車はいまだに慣れません。行政サービスの処理はアメリカの方が IT 化が進んでいると感じます。免許更新はアメリカではオンラインが一般的ですが、日本はまだまだ紙ベースで処理されているなと思いました。日本での生活が始まる前、日本はすべてが高いレベルで自動化されている社会だと思っていたので、少々ギャップを感じました。これはアメリカも同じで、良い部分・悪い部分がそれぞれあると思います。

日本と比較してシアトルの良いところはどこでしょうか?

シアトルの良いところは、近郊に自然が豊かであることが第一に挙げられます。車で少し走ればマウント・レーニアを始めとして大自然が広がっており、生活にも子育てにも最高の環境だと感じます。人も東京より少なく満員電車で通勤することももありませんしね(笑)。

ありがとうございました。

取材を終えて:
エンジニアリング・チームでのマネジャー・ポジション(管理職)で、エンジニアから上位へ進むキャリアパスが存在します。今回取材した開発マネジャーというポジションは、エンジニアとしてのバックグラウンドを活かして、チーム間で交渉したり、部下となる SWE の育成など大変な面もありますが、田中さんの語気から、とても充実しており、やりがいのある業務だと感じました。エンジニアであっても技術スキルと平行して、相手を納得させるコミュニケーションスキル(口頭および書面)を取得することは重要であると考えさせられます。

アメリカと比較して日本国内システムを見渡すと、まだまだ IT が貢献可能な部分があります。海外文化の体験により肌感覚として複眼的に考察できるようになることは、大きな強みになると感じました。

取材・執筆:金子 敏章
大学では応用物理を専攻。卒業後、日系 IT 企業に就職。現在はシアトルでデータセンター製品の開発に従事。

掲載:2016年12月

この記事は、参考情報の提供のみを目的としており、法的その他の専門的助言を提供するものではありません。この記事に記載する情報に基づくいかなる行為およびその結果について、筆者および SIJP は一切責任を負いません。また、掲載内容は対談者個人の見解であり、所属する企業を代表するものではありません。

コメント

この記事にコメントする

※コメントは承認制です。公開までに時間がかかることがあります。
※弊社へのご連絡にはお問い合わせフォームをご利用ください。コメント欄はご使用になれません。
※内容によって掲載をお断りする場合もありますので、あらかじめご了承ください。

「ひと」の新着コメント

このカテゴリーのコメントはありません。