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第32回 旧レイク・ユニオン火力発電所

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筆者プロフィール:松原 博(まつばら・ひろし)
GM STUDIO INC.主宰。東京理科大学理工学部建築科、カリフォルニア大学ロサンゼルス校建築大学院卒。清水建設設計本部、リチャード・マイヤー設計事務所、ジンマー・ガンスル・フラスカ設計事務所を経て、2000年8月から GM STUDIO INC. の共同経営者として活動を開始。主なサービスは、住宅の新・改築及び商業空間の設計、インテリア・デザイン。2000年4月の 『ぶらぼおな人』 もご覧ください。

1886年、日本で初めての白熱電灯が点灯された翌年、シアトルでも初めて火力発電の電気によって白熱電灯が点灯された。その後、市内の電力化のスピードはめざましく、3年後には、同じく火力発電によって市内初の電気式路面電車が開通した(街路樹第30回シアトル路面電車参照)。

当時、シアトル市内の電力発電を請け負っていたのは、トーマス・エジソンの下で働いていた2人の技術者が始めたSeattle Electric Light Company。しかしながら、1902年に市民投票で決議され、開発および建設が開始されたCedar Riverの水力発電所が完成する1905年には、シアトル市の電力供給はシアトルシティ・ライト(Seattle City Light)と呼ばれるシアトル市の機関が関連企業を吸収し、独占して事業を行うようになった。

旧水力発電所東立面

写真1:旧水力発電所東立面

1912年、レイク・ユニオン湖畔北東側に市内で初めての水力発電所が建設された。湖の東側に隣接するボランティア・パークは300フィートの高地にあり、そこにある貯水池からパイプを通して発電所に引き込まれる水流を利用してタービンを回し発電をするミニ水力発電所だった(写真1)。シアトル市専属建築家であったダニエル・ハンチントンの設計による建物はミッション様式と言われ、白いスタッコの外壁、茶色の素焼きの瓦、アーチ型のモチーフと、発電所と言うより、おしゃれな住宅のように見える。この発電所は翌1913年には水力発電を中止し、電力供給量が安定している火力発電に切り替えられた。

旧火力発電所拡張部分東側側面、左端に旧水力発電所が見える

写真2:旧火力発電所拡張部分東側側面、左端に旧水力発電所が見える

ザイモジェネティクス本社入口付近

写真3:ザイモジェネティクス本社入口付近

シアトル市の経済と電力の需要拡張に対応するため、1914年、シアトル・シティ・ライト社はこの発電所に隣接した北側の土地で拡張工事を開始した。高さ47フィート、奥行き90フィートのガラス張りの建物の上部には当時、地上からの高さ95フィートの煙突があったそうだ。水分の多い湖畔の敷地であるため、建物を支える基礎木製パイル(旧東京丸の内ビルと同じ工法)は2000本以上と言われている。1914年から3期に渡って拡張されたこの発電所は、14台のボイラーとタービンによって、約3万キロワットの最高電力出力を持つ発電所として1923年に完成した(写真2)。この発電所(公式名:Seattle City Light Steam Plant)は1980年代半ばに閉鎖されたが、1994年にシアトル市の保存歴史建物に指定された後、ザイモジェネティクス社の本社ビルとして改築され、現在もオフィスビルとして利用されている(写真3)。

同ビル、レイク・ユニオン側、建物西側立面

写真4:同ビル、レイク・ユニオン側、建物西側立面

この建物を見てまず感じることは、今から100年近く前に建設されたビルでありながら、とてもモダンであることだろう。同時期にダウンタウン・シアトルに建設された高層オフィスビルのスミス・タワー(第31回 ダウンタウン・シアトルの建物とその様式参照)に比べても窓の面積が極端に広く、当時流行していた建築様式である新古典主義の装飾はどこにも見当たらない(写真4)。発電所と言うと、日本ではコンクリートの箱を想像してしまうが、100年後にオフィスビルとして使用されているこの建物からは、屋上に突き出した煙突がなければ、ボイラーとタービンが建物の中に入っていたことはとても想像できない。

旧水力発電所内、現在はレストランとして使用されている

写真5:旧水力発電所内、現在はレストランとして使用されている

石炭や薪が一般家庭の標準燃料だった20世紀初頭、電気エネルギーを使用することは一般庶民にとって奇跡的なことであったに違いない。100年後の現在、国際空港ターミナル・ビルやスポーツ・スタジアムがその街を代表する建造物であるように、この発電所は、ミッション様式自体が当時のシアトルにおいてかなりエギゾチックであったことを含めて、当時のシアトル市を代表する建物であったことを実感させてくれる。

掲載:2014年12月



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