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第41回:砂場デビュー

砂で汚れるのを嫌がって、公園の砂場では決して遊ぶことの無かった長女が、次女が何のためらいもなく砂場で遊ぶのにつられてようやく砂場で遊ぶことが好きになった。長い間ガレージで眠っていた "お砂場セット" もやっと活躍の時がきた。そんなある日、砂場でちょっとした出来事があった。

持参したおもちゃを砂場に広げて娘たちが遊び始めると、2歳ぐらいの女の子がやってきて、我が家のおもちゃで勝手に遊び始めた。子供のことだし、特に目くじらを立てることもないと思い、何も言わずそのまま使わせてあげていると、2つあるスコップ(黄色とピンク)を2つとも取ってしまったので、長女は私のところにやってきて、「ピンクのスコップが使いたい」と訴えた。積極的に取り返しに行くタイプではない長女はおもちゃを取られて今にも泣きそう。 "Please give that back." と自分で言ってごらん、と、言い方を教えると、意外にも(見知らぬ子供に自分から話しかけることは絶対にしないと思っていた)、蚊の泣くような声ではあるものの、自分で言いに行った。これだけで私は涙が出るほど嬉しかったが、予測どおり、相手の子の答えはノー。さて、どうするか。もう娘は半泣きである。

それを見ていたその女の子の母親が登場。「あなたに2つはいらないから、その女の子(長女のこと)に1つ渡してあげなさい」と言っている。ちょっと待てよ?他人のおもちゃを断りもなく使うことを黙認しながら、2つのうち1つだけ渡してあげなさいというのはちょっとおかしい。せめて、「返しなさい」というのが筋でしょう。しかし、まあこれもそこまで目くじら立てることでもないかと思い、ここはその母親に任せ、ようやく長女は1つだけスコップを返してもらった。

その後さんざん他人のおもちゃで遊んだその女の子は、ついにバケツなど我が家所有のおもちゃ一式を砂場の外に持ち出した。しかも、彼女の母親は、その中のおもちゃの使い方を見せてあげたりしている。この時点でも母親から私に一言の断りもなし。このまま彼らは私達のおもちゃを持って返ってしまうのではないか?と心配になり、彼らをチラチラと見張っていたら、それが気に入らなかったのか、その母親は明らかに私たちのおもちゃだと知っているくせに、、「さあ、このおもちゃは誰か他の人のものだから、そろそろ砂場に返した方がいいわね」という言い方をする。長女を受け取りに行かせると、その女の子が長女におもちゃを渡した。そして、その時その母親が言ったことは・・・「まあ!あなたはその子とおもちゃをシェアできたわね!ほんとにいい子!」

薄々と、何か腑に落ちないと感じていたが、この時、この母親は明らかにおかしいと悟った。他人のおもちゃを断りもなく借りることを黙認し、返すときにたった一言の感謝の言葉を述べることを教えず、シェアできたことだけ褒めるとは・・・あまりに腹が立ったので、その母親に聞こえるように、「あなたのおもちゃを知らない子に貸してあげて、ほんとにいい子!」と娘を褒めておいた。単に常識に欠けるだけか、私が最初に長女にスコップの1つを返してもらうように行かせたのが気に食わず、その仕返しなのか、それともアジア人に何か恨みがあるのか、全く見当もつかなかった。

ここアメリカでは何かと幼い子供にシェアするのを教えることが強調される。もちろん、シェアすることが大切なのは言うまでもない。しかし、シェアすることの本当の意味がまだ分かる年頃ではない幼児に、ありがとうの一言を教えることをせずまでして強調することだろうか。自分達が楽しもうと思って持ってきているおもちゃなのに、取られて遊べなくなっては意味がない。これを機に、勝手に私達のおもちゃを取りに来る見知らぬ子からは、その場で返してもらうことにした。大人の場合、見知らぬ人の所有物を一言の断りもなく借りることはしないのが普通だから、別にケチとか意地悪ではないはずだ。もちろん、お友達には貸してあげる。シェアは、よく知っているお友達や姉妹兄弟の間で経験を積んでいけばいいのだ。

娘には、今はシェアができることよりも、自分の物を取られたら取り返しに行けるようになってほしい。取り返すだけでなく、何事にもきちんと自己主張できるようになってほしいのだ。センシティブで優しい長女は、お友達に強く立ち向かって行くことができない。しかし、9月からはプリスクールが始まる。そこでは私が傍にいて守ってあげることができない。自分の物を取られっぱなし、友達に命令されっぱなしには絶対になってほしくない。いじめなんてもってのほか。だから、今は取られた物を取り返すときのロールプレイをまめに行うようにし、実践を積むため、できるだけ人の多い公園やモールの遊び場に行くように心がけている(自己主張をしないと遊具の順番がいつまでも周ってこないこと、また、どんなやり方でどこまで自己主張することが許される範囲かを経験を通して身につけていけるのではないかと期待している)。自己主張しなければ生き残れないアメリカ社会で、子供が強くなってほしいということに、もしかして親の私が気負いすぎているのかもしれない。それでも、今は「貸してあげなさい」でなくて、「取り返してもいいのよ」ということを強調したい。こういうことを考えさせてくれるきっかけとなった失礼極まりない母親にも「きっかけをくれてありがとう」と言ってやりたい。

(2006年8月)

追記:

この回のエッセイについて掲示板でいろいろなご意見をいただいたため、ここに追記させていただきます。僭越ながら、このシアトルで同じようにがんばっている人々に何かの形で貢献できればと現在まで書かせていただいているこのエッセイで、一部の方に不快な思いをさせてしまったことを深くお詫び申し上げます。

内容に疑問を持たれた方には、このエッセイは、「私」が「私の子供たち」を育てていく上での「ごく私的な体験」を、「個人的な視点」で語ったもの、ということをご理解下さい(ページ下の注記をご参照下さい)。個人的意見がなければこのエッセイは成り立ちませんので、私が感じたことについては、どうしてもある程度の断定が含まれてしまいます。例えば、ここに登場する母親の行動については、私の判断基準に照らした個人的意見として「おかしい」と書きました。もちろん、言うまでもありませんが、私の考えや行動について、「どんな状況でも当てはまる常識だ」と考えているわけではありません。

また、最後の一文についてですが、私はこの文に、「子育てをしているとたまにはこんな腹立たしい事にも遭遇しますよね。でも、結局は子供の成長について考えるきっかけになったわけだから、怒りもほどほどにして、ポジティブに考えたいですね」というメッセージをこめたつもりでした。しかし、私の文章力の無さから、一部の方にそのメッセージが伝わらないどころか、不快な印象さえ与える結果となったことを、お詫び申し上げます。同時に、このメッセージを読み取っていただいた方々には感謝いたします。

最後に、このエッセイが今後も回を重ねていった場合、私が、子育てをしているほとんどの親と同じく、子供の成長に一喜一憂し、悩み、試行錯誤しながら子育てをしている一人の母親であるということを念頭に置いてお読みいただければ、より身近に感じながらお読みいただけるのではないかということを付け加えておきます。

こうして自分のエッセイのあり方について頭を悩ませ、この追記原稿を書いている間にも、子育ては進行中です。皆さん、がんばりましょう!

(2006年9月)

執筆者プロフィール: 日本での長い独身貴族生活の後、軽い息抜きのつもりでやってきたシアトルで思いもよらず今の夫と出会い結婚。2002年初夏に初めての妊娠が判明し、人生が180度転換してしまった。2003年に長女を出産し、2005年には次女を出産。子育ての毎日は初めてのことばかりで、心配したり悩んだり喜んだりと実に賑やかな(?)生活を送っている。

Back Number
2008年
第61回 言語のはなし 続き
第60回 子供とアクティビティ
第59回 アメリカ人が甘いもの好きな訳?
第58回 逆カルチャーショック
第57回 学校選び
第56回 バケーション

2007年
第55回 言語のはなし 第49回 夏休み
第54回 風邪に悩まされた10月 第48回 おもちゃと遊び
第53回 ほめられるのが嫌いな子 第47回 トイレ・トレーニング完了
第52回 日焼け対策 第46回 姉妹の関係
第51回 ファミリー・キャンプ 第45回 子供の味覚
第50回 プリンセスとウルトラマン 第44回 2006年を振り返って

2006年
第43回 お誕生日パーティ 第38回 子供の感受性(2)
第42回 プリスクール 第37回 子供の感受性(1)
第41回 砂場デビュー 第36回 自分でさせる教育
第40回 殻を破り始めた娘 第35回 ベビーシッター
第39回 スクラップブッキング

2005年
第34回 日本のお風呂に開眼 第28回 しつけ
第33回 子供2人連れ、飛行機の旅 第27回 卒乳(Weaning)
第32回 歌を歌おう 第26回 2度目の出産
第31回 トイレ・トレーニング(Toilet training) 第25回 2人目対策
第30回 引越し 第24回 おもちゃ
第29回 ルーティーン(Routine)

2004年以前
第23回 母親のストレス解消法 第11回 手ごたえあり?の娘との2人旅
第22回 ハロウィーン 第10回 初めての病気
第21回 妊娠中の授乳 第9回 離乳食を始めた
第20回 グランパとグランマ 第8回 初めての飛行機の旅
第19回 ベビー・サインと言葉の発達 第7回 快適育児生活
第18回 日本 vs アメリカ お風呂の入れ方 第6回 「ベビー・・・」
第17回 絵本を読もう 第5回 次の試練 「睡眠不足」
第16回 ベビーとの外食 第4回 最初の試練 「授乳」
第15回 トドラー食 第3回 ついにその日が来た
第14回 あっという間の1年 第2回 妊娠はつらいけれど幸せ
第13回 帰省 第1回 妊娠の日米比較
第12回 動き出した!


注)当ページに記載されている内容は個人の一意見です。この情報に基づいて行動した結果なんらかの損害が発生した場合においても、執筆者およびジャングルシティは一切責任を負いません。記載された情報を活用される場合は、あらかじめ専門家に照会するなど必要な確認を行った上、ご自分の責任で判断していただきますようお願い申し上げます。
   
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