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第40回:殻を破り始めた娘

子育ては思うようにいかないことがほとんど。先が見えない上、正しいことをやっているかどうかがすぐに分からない、即時結果も望めない。ただ、今できること、正しいと思うことをやるしかない。だからこそ、苦労の成果が見える瞬間は、本当に嬉しいものだ。

第3738回で、長女の性格について話をしたが、最近ちょっとした出来事があった。先日のプレイグループのとき、私がママ友達と話しこんでいると、娘がお友達と手をつないで公園内を駆け回っているではないか。これまで公園などでは私のそばから離れず、プレイグループでは誰とも遊ばず、手をつなごうと誘われても一切受け入れなかった、"失礼" な彼女が、だ。

その日の帰りの車で彼女は、「楽しかったー」「〇〇ちゃんとまた遊びたい」と繰り返し、1人で遊んでいた時とは比べ物にならないほど楽しんだ様子。私の顔はほころんだ。こんなに楽しんでくれるのなら、連れて来る甲斐があるというもの。ここのところたいした進展もなく、私自身、何でも1人でやるのが好き方なので、「この際、友達なんてできなくていい。1人でどんなことでも解決できる子になることも大切だ。最低限、社会生活が滞らないよう普通に対人関係がやっていけるようになればもう、それ以上は望みません」状態にまでなっていた私に、「人とともに遊ぶこと」が他でもない喜びを生み出すのだとあらためて気付かされた。子どもの心の栄養には仲間が必要なのだ。

1歳半ごろまでは、子どもたちを一緒に遊ばせても、いわゆる "Parallel play" という遊び方で、お互いに本当の意味で一緒に遊ぶことはないが、3歳ともなると、本当の意味で一緒に遊び始める。人と遊ぶということに喜びを見出すようになるのだ。この喜び、遅ればせながら、我が娘もついに味わってしまったようだ。もちろん、普段からとても慣れ親しんでいる女の子というのが条件だが。

その次の週、8ヶ月近く毎週通っている音楽クラスでも大きな変化があった。クラスの始めに皆が注目するほど大きな声で話し、他のママたちに、「あなたがこんなに話しているのを初めて聞いた!」と驚かれた。そして、お気に入りのコーナーではハイパーにはしゃぎまわり、先生も、「ついにシェル(殻)から出てきつつあるようだね!」と喜んだ。それまでの長女は、クラスには全く参加せず、私が率先してやろうとしても怒るだけで、ただ私にピタリとくっついて固まっているだけだった。「授業料を払って娘が楽しんでいないことをする理由があるのか?」という葛藤があったが、家ではクラスで習う歌やお遊戯を喜んでやっていること、クラスから戻ると「楽しかった」と言うこと、続けたいかと聞くと「行きたい」と言うことなどの理由で続けてきたのは間違いではなかったようだ。

このクラスには他にもシャイな男女の双子ちゃんがいる。シャイと言ってもクラスでやることには一応参加しているので、長女のそれに比べると随分マシかなと思うのだが、何しろ彼らは生まれたときから仲間がいて、それは随分と強みになっているのではないかと思う。彼らもやはりハイリー・センシティブ(Highly Sensitive、第3738回参照)の部類に入るのだろう、特に男の子の方は、母親も「彼の Social Anxiety(社会不安)はかなり深刻だ」と言っていたほどだ。ある日、クラスに他の生徒のおじいちゃんがついてきた時、それだけで彼の心の平静が崩れたらしく、途中で教室外に出て気持ちを落ち着かせるしかなかった。そんな彼らも、ここのところ、随分とクラスでの表情が柔らかくなり、発言も増え、とても楽しんでいる様子。「同じ時期にこの子たち(私の娘を含め)がシェルから出はじめたのもなんだか奇遇だわね」なんて、私たちはお互いの子どもの進歩を喜び合った。

幼少時期の特別な人見知りや物事を怖がる時期が収束してきた、つまり、単に時期が来たと言えばそうかもしれない。でも、私としては、毎週毎週、楽しんでくれるわけでもないプレイグループに(私はママ友達と会うのが楽しいのだけれど)連れて行く意味があるのかという葛藤を乗り越え(ずしーん、と落ち込むことも多かった)、同じメンバーと会い続けることに意味があるのだと信じて続けてきたこと、音楽クラスもできるだけ欠席せず、「同じ場所、同じメンバーを継続する」ことをモットーに続けてきたことが良かったと思いたい。さらに言うなら、子育てなんて、誰が褒めてくれるわけでもなく、どこまでが自分の努力の成果かということが数字で現れるわけでもない(今月は成長度20%増で目標達成、なんてハッキリ成果が出たらどんなに良いだろう!)。だから、何かいいことがあったら「やっぱり母親の私の努力の賜物なんだわ」と思い明日の心の糧にするしかない。

ところで、控えめを美徳とする謙遜文化のある日本ではまだしも、自己主張の国アメリカでは、「シャイであること」はかなり問題視されることで、日本以上にネガティブなイメージがついてまわるだろう。それがこの国の価値観なのだが、それに屈してしまうと、自信の無い人間になってしまう。自分の娘には、シャイであることが悪なのではない、本当の悪は別のところにあるという価値観を伝えていきたい。

余談だが、私がラッキーなのか、兄弟姉妹とはうまくできているものなのか、次女に関して同じ苦労をする必要は無さそうだ。正直、2人ともこれではかなりきつい。次女は公園では見知らぬ人に寄っていくし、私から離れてフラフラと歩き出す、街や公園でよく見かける一般的なトドラーだ。「もうもう、この子ったら、動き回って。こらこら、待ちなさい!」とかなんとか言いながら子どもを追いかけてみたいものだと思ったこともあったが、その小さな小さな夢も今は実現している。

(2006年6月)

執筆者プロフィール: 日本での長い独身貴族生活の後、軽い息抜きのつもりでやってきたシアトルで思いもよらず今の夫と出会い結婚。2002年初夏に初めての妊娠が判明し、人生が180度転換してしまった。2003年に長女を出産し、2005年には次女を出産。子育ての毎日は初めてのことばかりで、心配したり悩んだり喜んだりと実に賑やかな(?)生活を送っている。

Back Number
2008年
第62回 ガレージセール
第61回 言語のはなし 続き
第60回 子供とアクティビティ
第59回 アメリカ人が甘いもの好きな訳?
第58回 逆カルチャーショック
第57回 学校選び
第56回 バケーション

2007年
第55回 言語のはなし 第49回 夏休み
第54回 風邪に悩まされた10月 第48回 おもちゃと遊び
第53回 ほめられるのが嫌いな子 第47回 トイレ・トレーニング完了
第52回 日焼け対策 第46回 姉妹の関係
第51回 ファミリー・キャンプ 第45回 子供の味覚
第50回 プリンセスとウルトラマン 第44回 2006年を振り返って

2006年
第43回 お誕生日パーティ 第38回 子供の感受性(2)
第42回 プリスクール 第37回 子供の感受性(1)
第41回 砂場デビュー 第36回 自分でさせる教育
第40回 殻を破り始めた娘 第35回 ベビーシッター
第39回 スクラップブッキング

2005年
第34回 日本のお風呂に開眼 第28回 しつけ
第33回 子供2人連れ、飛行機の旅 第27回 卒乳(Weaning)
第32回 歌を歌おう 第26回 2度目の出産
第31回 トイレ・トレーニング(Toilet training) 第25回 2人目対策
第30回 引越し 第24回 おもちゃ
第29回 ルーティーン(Routine)

2004年以前
第23回 母親のストレス解消法 第11回 手ごたえあり?の娘との2人旅
第22回 ハロウィーン 第10回 初めての病気
第21回 妊娠中の授乳 第9回 離乳食を始めた
第20回 グランパとグランマ 第8回 初めての飛行機の旅
第19回 ベビー・サインと言葉の発達 第7回 快適育児生活
第18回 日本 vs アメリカ お風呂の入れ方 第6回 「ベビー・・・」
第17回 絵本を読もう 第5回 次の試練 「睡眠不足」
第16回 ベビーとの外食 第4回 最初の試練 「授乳」
第15回 トドラー食 第3回 ついにその日が来た
第14回 あっという間の1年 第2回 妊娠はつらいけれど幸せ
第13回 帰省 第1回 妊娠の日米比較
第12回 動き出した!


注)当ページに記載されている内容は個人の一意見です。この情報に基づいて行動した結果なんらかの損害が発生した場合においても、執筆者およびジャングルシティは一切責任を負いません。記載された情報を活用される場合は、あらかじめ専門家に照会するなど必要な確認を行った上、ご自分の責任で判断していただきますようお願い申し上げます。
   
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