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築地市場のドキュメンタリー『TSUKIJI WONDERLAND』、全米各地で上映、日本で公開へ

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日本の食文化の集積地にして世界最大の卸売市場 『築地市場』。市場の外は一般に観光地・グルメスポットとして親しまれているが、一般立ち入り禁止の市場の中には海産物を知り尽くした仲卸業者が、日本国内はもちろん、世界各地から届く注文をさばく世界が展開している。そんなプロの仕事を1年間にわたり密着撮影したドキュメンタリー 『TSUKIJI WONDERLAND』 のシアトル国際映画祭での世界初上映はシアトル市でもベルビュー市でもチケットが完売し、日本の食と「TSUKIJI」の影響力を感じさせた。これまで誰も撮ったことのなかったドキュメンタリーを完成させた、遠藤尚太郎監督、プロデューサーの奥田一葉氏、築地研究者のハーバード大学ライシャワー日本研究所所長のテオドル・ベスター教授に話を聞いた。
TSUKIJI WONDERLAND

– このドキュメンタリーを製作しようと思ったきっかけは。築地に以前からなじみがあったのか。

遠藤監督:仲卸しさんの世界を見るきっかけがあって、「自分も含めて、日本人はみんな築地の中を知ってるようで、全然知らないな」と。外はみんな結構馴染みがあったりするんですが、中にあるプロ用の市場で出会った人たちは、かっこよくて、生き生きしていて。すごくプライドを持って仕事をしているし、情熱的だし、まるで昔の日本というか、高度成長期の日本はこうだったんじゃないかと思えました。今は日本の社会自体が景気が良くなくて、元気がなかったりしますが、築地はそうじゃない。だから、「そういうところを映画として記録して、いろんな人に伝えたい」と思ったのが最初です。

– どのぐらい時間をかけたのか。

遠藤監督:構想には、1年ちょっとかけました。どんな映画にしたらいいのか考えて、試し撮りしたり、テストしたり、ちゃんと入らせてもらうために交渉したり。そして、1年半前に、記者会見を開いて、映画にすると発表しました。

– 最初から海外に持って行こうと考えていたのか。

遠藤監督:海外に持って行こうと、最初から考えていました。日本人に限らずだと思いますが、自分たちの国の中にいるとわからないことがやっぱりあります。映画なら海外の映画祭に出るとか、レストランだとミシュランとか、そういう外からの評価をフィードバックとして、自分の国や文化を見つめ直したいというのが、僕の中にありました。それで、最初から海外を意識して、前提となるような日本語のナレーションを使わず、基本的に最初と最後に英語でナレーションを入れました。映画の中では、築地にいる人たちの言葉や、実際に見聞きした人の言葉を聞いていただきたいですね。

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– この作品に登場する仲卸さんたちは扱っているものを知り尽くしている存在。日本の食の素晴らしさを感じさせる。

遠藤監督:仲卸さんはそうですが、一般の日本人は知っているようで知らない。特に魚については知りませんね。今は養殖ものが多くて、いろんなものがスーパーに並んでいるのが当たり前になっています。この映画では料理人にもたくさん出演していただいていますが、みなさんがおっしゃるのが、「外国人のお客さんの方が多い。外国人の方が真摯に日本文化を勉強しようとしている」。むしろ今は、海外の人の方が日本の食について積極的かなという気がします。

奥田一葉氏:シアトルに来て、パイク・プレース・マーケットに行ったんです。こちらで魚を扱っている人も、築地の仲卸さんも、扱っているものについての知識の深さは同じかもしれない。でも、やはり築地は扱っている量がすごいですね。

テオドル・ベスター教授:まず、築地では最低400以上の種類を扱っていると知って、そんなにあるんだ、と驚きました。一般のアメリカ人の立場からすると驚くでしょう。築地の中では、一つの仲卸組合の中にも小さなグループがたくさんあるのですが、それぞれ専門がありますね。日本の食文化の特徴の一つだと思います。

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– この映画を製作して、日本の食文化について改めて気づいたことは。

遠藤監督:ベスター教授もおっしゃったように、日本の食文化の特徴は、すごく専門化されているということ。大枠があったとしても、寿司なら寿司、天ぷらなら天ぷら、うなぎだったらうなぎ、鍋だったらあんこう鍋専門店とか。そういう専門的な店満足させているのが築地です。そこが海外の食文化と違う特徴ですね。築地の仲卸さんも、全員がそうではないですが、まぐろだったらまぐろ、海老だったら海老と、結構専門化されていますし、「ここだったら光物」「ここだったら活魚」というように、「この店だったら、これが強い」というのがあるんですね。昔はもっと細かくて、近海物屋さんとか、手繰りだとか、赤ものとかまで細分化されていたそうです。今は昔ほど厳密ではないのが多くなってきているようですが、日本の食文化はそういったことの上に成立していたんだなとわかりました。

TSUKIJI WONDERLAND

– 移転については。

遠藤監督:個人的には移転は残念ですね。愛着がありますし。ただ、築地が80年前に日本橋から移転した時は猛反対がありました。構造が変わってしまうというのが大きな理由で。僕も感情的・個人的には残念ですが、反対ではないんです。施設を新しくして最新の設備を入れる必要があったり、冷蔵・冷凍施設を時代にあわせて進化させないといけない、加工する場所がもっと必要かもしれない。何かが変わる時は反対意見というのはあると思うし、逆に、今のままでいいとは誰も思ってない。もう決まったことだし、よいかどうかは未来の人が判断すると思います。

でも、そこで日々の仕事をしている人がいれば、豊洲に移っても、そこで働いている人が一緒であれば、場所が変わるだけで、何かしら受け継いでいかないといけないことがあるはずなんです。それが何なのかを、この映画を通して見つめなおしたい。それが、この映画を作った一番の理由です。僕らの世代がもっとちゃんと考えなくちゃいけない。

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– 食文化を受け継いでいくという面で、しなくてはならないと思うことは。

遠藤監督:供給する側だけの問題でなく、消費者も勉強しなくてはならないと思います。今、包丁がないどころか、冷蔵庫さえない家庭があるそうです。「下がコンビニだから」という理由で(苦笑)。そういう中で、食べるというのは生きていくことの根本で、食というのはその国の文化を表すかなり重要な要素だと思うんですが、日本人は戦後から欧米化してきて、自国の文化をいろいろ失ってきていると思います。でも、それは失ってはいけない。「欧米のことを取り入れるのをやめましょう」ではなく、日本のこともきっちりと受け継いでいかないと。築地ではそれを日々やっている人たちがいるんです。日本食文化を守ろうという人たちが多いのです。旬を大事にする料理人に「これがいいですよ」「これがありますよ」というのを日々支えている人たちなんです。

奥田:カッパーリバー・サーモンをシアトルでいただきました。シアトルにも旬を祝う文化があるんだ、旬を味わいたいというのは日本だけじゃないんだと知って、嬉しくなりました。

TSUKIJI WONDERLAND

遠藤監督:シアトルで寿司職人の加柴司郎さんとお話しさせていただいた時、日本人の味覚が変わってきているという話になりました。天然と養殖があったら、子供たちは脂がぎとぎとに乗っている養殖を選んで「おいしい」と感じて、それよりあっさりめの天然を食べてもおいしいと思わなくなってきているそうです。天然は高いので、食べる機会がなかなかなくなってきているというのもありますが。味覚は学んでいくものだとしたら、今後いろんなものが変わっていくだろうなと。

シアトルの上映ではチケットが完売して、当日は劇場の外に行列ができているのを見て感動しました。この映画は堅苦しいものではなく、「こんなかっこいい人たちがいて、こんなおいしいものがあって、こんなすばらしい文化があるんだ」ということを感じてもらえればと思います。少なくとも、「今」を知ることで、今後がより良いものになるように、日本の食文化を受け継ぐ機会になれば嬉しいです。

『TSUKIJI WONDERLAND』築地ワンダーランド
今年11月に閉場する築地市場、初の映画。世界が注目する日本の食文化の集積地、その知られざる世界を描く。ロサンゼルスでは8月に国際交流基金主催で上映会が行われる。日本での公開は10月。日本語公式サイトはこちら

インタビュー:2016年6月 掲載:2016年8月 取材協力:株式会社ENパシフィックサービス

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