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能楽師・武田宗典 伝統の枠を超え、能とオペラの新舞台に挑戦

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武田宗典

日本が誇る伝統芸能のひとつ、「能」。英語では “Noh” と表記され、ユネスコの無形文化遺産にも指定されたこの「能」を、これまでに例のない形で世界に紹介しようとしている能楽師がいる。能楽師観世流シテ方、武田宗典。1978年に東京に生まれ、親戚一同が能楽師という環境で育ち、2歳11ヶ月で初舞台を踏んだ、能楽界の若手スター。2008年からは能を気軽に体験できる謡サロンなどのプロジェクトを展開し、海外公演にも積極的に参加してきた。そして、2013年にシアトルで開催した能のワークショップが大反響を得たことから、能とオペラをシンクロする新しい舞台をこの9月に上演する準備を進めている。伝統の枠を超えた挑戦の初リハーサルを終えたばかりの武田さんに聞いた。

西洋のオペラとのコラボレーション

今回の公演は、第1部が伝統的な能 『巴』 、第2部がコンテンポラリ・オペラ 『YOSHINAKA』 という2部構成で、能楽師がオペラにも挑戦するという、おそらく世界初の試みです。『巴』 は戦いに敗れた主君の木曽義仲と最期をともにできなかったことを恨んで亡霊となった巴が主人公。一方、『YOSHINAKA』 はシアトル在住の作曲家で、能をモチーフにしたオペラ劇を創作しているギャレット・フィッシャー氏が手がけた、木曽義仲と巴が死んだ後の世界を、義仲の生涯と最期に深く共感していた松尾芭蕉が俯瞰するという作品です。この二つの作品をあわせることで、この世に未練を残したまま他界した義仲と巴の魂が浄化されていくという、大きく深いテーマを体感していただけるようになっています。

昨年シアトルで行った能ワークショップの後、前述のフィッシャー氏と会い、いつかコラボレーションができたらと話していました。しかし、まさかこんなに早く実現するとは思ってもいませんでした。

能の伝統の枠を超えた試み、観世流の家元も応援

家元の観世流二十六世宗家・観世清河寿は、「いろいろやってみるのはいいこと」「とにかくやってみなさい」とおっしゃってくださいました。ひとつだけ与えられた助言は、「できること、できないことを伝えるように」。私は能楽師ですので、能の動きにある、またはその延長線上にある動きをオペラ『YOSHINAKA』に取り入れていくわけです。また、能とオペラ、どちらも歌の部分は、「声を出す」というものすごく基本的なところは変わらないとは言え、表現の仕方も声の出し方も違います。今回のリハーサルは4日間のみで、私が登場する場面のみ集中して進めています。

日本でのリハーサルと言えば能に限らず喧々諤々だと思うのですが、フィッシャー氏をはじめとするスタッフの皆さんは「和」を求めつつ、同時に言わなくてはならないことはちゃんと伝えるというやり方で、それは非常に勉強になります。その場での対応を瞬時に求められることもあり最初はとまどうこともありましたが、試行錯誤しながらも確実に前進していますね。

能楽師として生きること

武田宗典

父親も親戚も皆が能楽師という環境で育ち、2歳11ヶ月で初舞台を踏みました。学生時代は演劇やミュージカルも体験してみましたが、やはり一生をかけて追求していける能をやっていこうと、大学時代に決めました。

以来、能をもっとたくさんの方に知っていただくため、気軽に能を体験できる 『謡サロン』 というカジュアルなイベントなど、さまざまな試みを展開してきました。同じように、たくさんの能楽師が、能を広めたい、能を知ってもらいたいという共通の願いのもとにさまざまな活動をしています。それにはさまざまなやり方がありますが、私のやり方の一つは、このように海外公演で現地の方とコラボレーションしていくこと。それが、能楽師である私に与えられた役割ではないかと考えています。学生時代に西洋の声楽を学んだことも、今回の舞台につながっています。能だけをやっていたら、このようなお話は受けなかったでしょう。

しかし、考えているだけでは機会は巡ってきません。いろいろなところにオファーを出し、そして実現したのがシアトルでの公演です。シアトルは、日本の文化に造詣の深い方が多く、日本の文化を受け入れてくれやすいところ。昨年の能ワークショップを観にいらしてくださった方、そして公演を支えてくださった方など、たくさんの方々とのご縁もできました。本当にありがたいことです。

今回の舞台は、能楽師がオペラにも挑戦する、世界でおそらく初めての試み。ただ能をやるだけではなく、日本文化を新しいやり方で見せる。それがどんなものか、ぜひ確かめにいらしてください。

「能公演『TOMOE + YOSHINAKA』の詳細はイベント・カレンダーで!

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