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自然との一体感を生み出す – 木下有理のインスタレーション・アート 『Furyu』

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Furyu

「自然の中でそよ風を受けながら行うお点前は茶室とは違う。景色があるのが、まるで野点のよう」と、お点前を行った清水こうさん。

京都出身でシアトル在住の照明デザイナー、木下有理さんが2014年度の CITY ARTIST PROJECT でグラントを受賞したイベント 『Furyu』 が、7月25日・26日の2日間にわたりレイク・ユニオン・パークで開催された。これは、10フィート四方の茶室を木材と着物生地、和紙を使用して制作し、レイク・ユニオン・パークにある池に浮かべて茶道の実演を行なうというもの。夜には茶室がイルミネーションでライトアップされるのも見どころの一つとなった。

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池の縁から乗り込み、池の中央までロープで引っ張られ移動する。

幼い頃から絵を描くことやインテリア小物を作ることが好きだったという木下さんは、大阪モード学園でインテリアを学び、卒業時にインテリア・モード大賞を受賞。家族が経営する株式会社木下のトータル・インテリア・アート事業部 『Umbo』 で世界各地の小物の輸入販売や世界中の布を使用したオリジナルの着物や小物の販売を展開し、2003年にアメリカ・カリフォルニア州にて Umbo USA を設立して販売網をアメリカに拡大、2006年に照明デザイナーとして独立した。その後は日本・ドイツ・アメリカで個展の開催や展示会への出展を実現し、2008年2月にシアトルに移住してからは美術館やギャラリーでの作品展示のほか、商業施設や住宅、レストランなどへの照明の販売など精力的に活動の場を広げている。シアトル地域ではベルタウンの Shiro’s、イーストレイクの Sushi Kappo Tamura、キャピトル・ヒルの Momiji、ジョージタウンの Corson Building などで木下さんの作品を見ることができる。

池の縁から茶室に乗り込んで正座すると、木下さんがロープを操ってあっという間に池の中央部分まで移動した。前日までの曇り空と雨が嘘のように晴れ渡った空から照りつける日差しに水面がきらめき、そよ風が吹き渡り、街や人のざわめきが遠くから聞こえてくる。お点前を行っている朝子・ゴウさんの10数メートル向こうには先ほどまで自分がいた池の縁があり、たくさんの人々がこちらを眺めているのだが、自分はそれらすべてを遠い別の世界から眺めているかのような、不思議な感覚に陥った。

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不思議なことに、池の上の茶室は静寂の世界だった。

East West Chanoyu Center で裏千家茶道を学ぶ生徒の一人でお点前を行った朝子・ゴウさんは、「普段の茶室とは違い、ある種の緊迫感がなく、ものすごくリラックスした」とのこと。「外で風を感じて、ざわめきを聞きながら、水に浮いてお点前をするという、日本では得難い経験をさせていただいた」。また、裏千家を学んで9年になるという幸子・レヴィーさんは、池の中央まで行くと、不安定なのがなぜか逆に気持ちよく感じられ、ホッとしたそう。「まるで茶室に水が集まってきて支えられている感じがしました」。

木下さんはこのプロジェクトをシアトルの名前の由来になったネイティブ・アメリカンの酋長、チーフ・シアトルに捧げ、茶室の中にはチーフ・シアトルが1854年に第14代ピアス大統領に送ったとされる書簡の日本語版を記している。「大地はわたしたちに属しているのではない。わたしたちが大地に属しているのだ」「この美しい大地を守り続け、いつまでもいつまでも愛してほしい」と呼びかけるチーフ・シアトルの言葉を反芻しながら茶室が浮かぶ池から南に目を向ければ、そこにあるのはクレーンがあちこちから顔を出す、発展著しい街だ。この茶室はそんな発展著しい街にあって、「大地」に近いところにあるかのような静寂を作り出していた。

木下有理 公式サイト yurikinoshita.com

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