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青島千穂個展 『Rebirth of the World』 </br>生と死を行き来するファンタジー

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青島千穂の個展 『Rebirth of the World』が、シアトル・アジア美術館にて10月4日まで開催されている。独学でアートを学び、村上隆が率いるカイカイキキのメンバーとして、2000年にワシントン大学のヘンリー・アート・ギャラリーにも巡回した革新的な展示 『Super Flat』 に参加して以来、繊細さと残酷さが共存する世界観を感じさせる作品で世界的にその名を知られるようになった。出産と育児に専念するため2008年からアーティスト活動を休止していたが、今回の個展と新作発表で活動を再開した。

青島千穂

City Glow, 2005, Chiho Aoshima, Japanese, b. 1974, chromogenic print, 66 15/16 × 66 15/16 in., Courtesy Blum & Poe, Los Angeles/Galerie Perrotin, © 2005 Chiho Aoshima/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

今回の個展は、震災の後に少しずつ自然や都市が回復していく姿にインスピレーションを受けて生まれた最新の映像作品『Takaamanohara』を中心とした、3つのスペースで構成される。

最初のスペースには、見る者を残酷さとかわいさが混在する緻密な心象風景へ導く、代表的な画像をアクリル板に印刷した平面作品が並ぶ。「青島が頭の中で描いたファンタジーがそのまま100%実現されている」と、シアトル美術館日本韓国美術キュレーター、シャオジン・ウー。「手作業の跡こそ見えないものの、そのオリジナルな想像力は極めてユニーク。一つの画像ができるまでに膨大な作業プロセスと労力が注がれていることを知ってほしい」。 

イッセイ・ミヤケとコラボレーションした『Red Eyed Tribe』(2000)を始め、アクリル板に超高解像度でプリントされた緻密な平面作品はキャンディのように色鮮やか。しかし、よく見ると、巨大な骸骨から突き出た無数の墓石、枯れた木の枝に突き刺さった裸体の少女たち、自然界のありとあらゆる生き物が混沌と共存し、詩的で不気味な世界が広がっている。「ふつふつと行き場のないわだかまりや感情を抱え込んでいた頃は、内臓が飛び出ているような残酷なモチーフに惹かれていた」。しかし、万物に神が宿るという神道の教えに影響を受け、自然を畏敬の目で見る青島にとって、死を連想させるイメージは自然に近づく一歩でもある。「墓場という空間は、私にとっては心が安らぐスペース。死ぬということはどういうことなんだろう、死んだ時ってどういう気持ちなんだろう、ということにとても興味がある。人は死んで時間がたってから、自然に近づくと思う」。

そんな青島の内面に変化をもたらしたのは、出産と、東日本大震災という二つの出来事かもしれない。

宮崎県高千穂で見た朝日にインスパイアされたという壁画は、それを反映するかのようだ。「神が最初に降りてきた場所」と言われる山の向こうから朝日を浴びながら現れる巨大な天照大神、どこまでも広がる山脈とぽっかりと浮かぶ雲、その上に点在する小さな神たち。野原で空を見上げる鹿や猫。それまでの作品に見られる高解像度の無機的な平面とは正反対の、素朴で温かいタッチの作品には、顔のついた高層ビル、おなじみの墓場モチーフ、宇宙船、『モイモイ』 と名付けられたキャラクターなどが真珠の光沢に似た、虹色に重なる色彩で和紙の上に描かれている。

「もともとコンピュータを使いながら画像を作り出すことからスタートしたので、絵を手で描くのが苦手だった。一日に一枚絵を描くことで練習になると思い、300枚に至るまで毎日続けた」

この絵のコレクションを見て、「映像作品を作りたい」と提案したのは、青島と 『City Glow』(2005)でビデオ作品を共同制作したニュージーランドの映像アーティスト、ブルース・ファーガソン(Bruce Fugerson)。そして、何度もメールでやりとりしながら音や画面を編集し、青島のビジョンを忠実に再現させ、最後のスペースで上映されている映像作品『Takaamanohara』 が完成した。

幅十数メートルもある壁一面に投影された画像と、3D音響効果を駆使したこの共同作品には、そのスケールと完成度の高さで圧倒される。そこに描かれているのは、”神様が全てのことをつかさどる場所であり、私たちはその中で生かされて いる” 高天原(たかあまのはら)で、万物に宿る魂と、破壊と再生のサイクルだ。「東日本大震災を体験して、人々は災害には逆らうことはできないと感じた。自然のパワーを感じて、ショックを受けた」と青島。しかし、4年の歳月が経った今、自然も人々の生活も少しずつ元通りになってきていることに希望を感じるという。また、新しい命をこの世に送り出して以来、以前のような残酷でおどろおどろしい描写の作品はあまり作らなくなったという。

青島本人にとってアーティスト活動の再生を意味し、世界の生まれ変わりへの願いをこめた今回の個展。次の活動予定については、「ブルースとのコラボレーションで、新しい映像作品を作り続けていけたら」とのこと。生と死、破壊と再生のサイクルを超える可能性を感じさせる。

掲載:2015年5月 取材・文:田村麻紀

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