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マディソンにある 『Harvest Vine』 は、スペイン・バスク地方の郷土料理をベースにした創作料理の店。伝統を踏襲しつつも、趣向を凝らした色彩豊かな盛り付けの斬新なアイディアの料理を、450種類を誇るスペイン・ワインと共に楽しめる。
オーナー・シェフであるジョセバ・ヒメネス・デ・ヒメネスさんは、バスク地方の出身。自身の料理のスタイルを「バスク・フレンチ・スパニッシュ」と表現する。「スペイン料理」とは表現しない彼のポリシーを理解するためには、まずバスクという土地を理解するといいかもしれない。スペイン北部のフランスに接した地域がバスク地方だが、雨も多く芳醇な緑が茂り、人々がいわゆる「スペイン」という言葉から連想する乾いた太陽のイメージとは異なる気候を持つ。山海の豊かな食材にも恵まれ、文化圏的にフランスに近く、独自の気風を持つ地方だ。
フランスでも修行し、スペイン王室関係、在マドリッド・アメリカ大使館などでもキャリアを積んできたジョセバさんがアメリカに来たのは1984年。ニューヨークでコンサルタント・シェフとして20店以上の開店に尽力するなど活躍した後、ここシアトルに移り住み、菓子職人である奥さんのカロリンさんと『Harvest Vine』を立ち上げ、今年で10年。2007年はバスク料理をもっと気軽に味わえるバル風の店 『Txori』 (「バル」は居酒屋の意で、『Txori』はチョリと読み、鳥の意)も開店させたという、食一筋の人生を送る。「食はコラソン(心)!」と力説するジョセバさんは、「お客とは言え、あまりに料理を粗末にするのを目にすると注意してしまうこともあるんだ!」と「寿司屋のガンコ親父」のようなことを口にするが、バスク男性の正装である黒いベレー帽とちょび髭をトレードマークにした、笑顔の優しいシェフである。
『Harvest Vine』 の1階はカウンターを含め約20席のモダンで気軽な雰囲気だが、階下には、17世紀のバスク地方で一般的だった「タベルナ」(食堂)を模して作った一室も作られている。時代を経た色合いの木の扉を開けると、17世紀当時の農具などスペインから探してきた骨董が飾られた重厚な雰囲気に、一瞬にしてヨーロッパにいるような気分にさせてくれる。壁には自慢のワインがびっしり並んでいるのも壮観だ。
「たとえば初めてこの店に来た人に勧めるなら?」という問いに、ジョセバさんが選んでくれたプチ・コースを試してみた。
前菜は 『ビーツのサラダ』。1段目がオレンジ色のビーツ、2段目に赤色のビーツと、丸皿に二段に並べられた薄切りビーツはフルーツケーキのようだが、実はこの色合い、スペインの国旗の色を意識しているそうだ。少しシャリシャリ感を残した茹で具合は、簡単そうで、意外にきちんとしたレストランだけでしか味わえないもの。酸味を抑えたドレッシングがビーツの持つ自然な味を際立たせる。同じく前菜として楽しめる 『塩漬けサーモンの黒ビールムース添え』 は、「素材からの作業を自家製で」というモットーにのっとり、鮭選びから塩漬けまでシェフ自らが手がけた自慢の一品。これも素材の味が生きているうす塩仕立てで、赤オニオンのマリネと共に、黒ビールをベースにしたというホイップクリームがあしらわれている。ちょっと苦味が利いた不思議な味とサーモンの組み合わせが絶妙だ。
メインディッシュの中でも人気があるという『タラとポテトのクロケッタ(コロッケ)』 は マッシュされたタラとポテトがぎっしりと詰まった四角いクロケッタのカリカリ感が美味。ガーリック風味の温かいソースは、サーブする前にスープのように流しいれられる。下に敷かれたオレンジ色のソースがスープの中に浮き上がり、クロケッタの上にシェフがサッと乗せたガーリックの薄切りとオーガニック野菜との色合いもきれい。日本人にはなぜかこのクロケッタがなんとなく懐かしい味に感じられるかもしれない。
そしてデザートにオススメだという 『タルタ・バスカ(バスク風タルト)』 は、ダーク・チェリー入りで甘さ控えめの上品な一品。ラム酒が利いているが、さらにそれに一味深みがあるのは、アニスパウダーを使っているのだとか。ジョセバさん曰く、バスク地方の「おふくろの味」で、家族の集まりなどで出される定番だそう。チェリー以外にもリンゴで作ることもあるそうだ。
全体的に味付けを控えめにしてあるので、ひとつひとつ選ばれた旬の素材の本来の風味が生きているのを感じさせる。今回の取材ではこの季節にオススメのものを選んでいただいたので、別の季節に来たら、ぜひ質問して気軽にオススメも聞いて欲しい。『Harvest Vine』 では、常に「その年のその季節の一番新鮮な素材」を心がけるため、2週間ごとにメニューを作りなおすところにこだわりがある。魚に関しては特に鮮度が大事なため、水揚げ次第でメニューが決まる。魚のアイテムはメニューに載せていないことが多いそうなので、ぜひその日のスペシャルもチェックしてから選んでみよう。
特筆しておきたいことは、その盛り付けのセンス。皿の形や余白とのバランスも考え、美しく繊細に盛り付けられた料理は、目で楽しむ日本料理の文化を身近に育った日本人には、とても楽しめることと思う。
ワインは$30〜$2000と幅広く揃えているが、常に10種類くらいがグラスで注文できる($6~$12)。予算としては、1人平均$45〜だそうだが、満足度は高いだろう。営業時間は毎日5-7pmだが、貸切やイベントの場合はその他時間でも交渉に応じてくれるとのこと。すこし気取ったヨーロッパの雰囲気を味わいたい時に、ぜひおすすめしたい。
※お話を伺った方: Joseba Jimenez de Jimenez さん(オーナー・シェフ) |