日本から移民した一世のロイ・ヨコヤマさんと、シアトルで生まれ育った日系アメリカ人のヘレンさんの長男として、1940年6月25日にシアトルで生まれたジョン・ヨコヤマ氏は現在、「ほら、あの魚を投げるので有名な」と言われる、パイク・プレース・マーケットの魚屋 『World Famous Pike Place Fish Market』 を経営している。太平洋戦争勃発前からパイク・プレース・マーケットで野菜を売っていた家族と共に強制収容所に収容され、戦後にパイク・プレース・マーケットに戻った、ごくわずかな日系アメリカ人の1人だが、社員と一緒になって生み出した仕事と人生を楽しむための哲学が、米国だけでなく、世界各地で大きな影響を与えたことは、既にご存知の方も多いだろう。
日本による真珠湾攻撃から約2ヵ月後の1942年2月19日、ルーズベルト大統領が大統領行政命令9066号に署名したことにより、日本人を祖先に持つ日系アメリカ人の強制立ち退きから強制収容が実施されることになり、当時まだ2歳だったヨコヤマさんは、家族とともにカリフォルニア州のトゥール・レイク(Tule
Lake)に設置された集合センターに移された。この大統領行政命令は裁判や公聴会を経ずに特定の地域から住民を排除する権限を陸軍に与えるというもので、全米日系人博物館によると、その約7割はヨコヤマさんと同じくアメリカ生まれの二世、つまりアメリカ人だったという。ワシントン州(1)、オレゴン州(1)、カリフォルニア州(14)の合計16ヵ所にある競馬場や催事会場、家畜場が水・電気・下水が完備されているという理由で集合センターとなったが、集められた人々は、窓もなく、天井も低く、壁で仕切られただけの馬屋を改造した、アパートメントとは名ばかりの一室で動物の臭いと一緒に生活することを余儀なくされた。たいていは約100日間を集合センターで過ごしてから各地に設置された強制収容所に移動させられたそうだが、ヨコヤマさん一家もアイダホ州ハントに設置されミニドカ強制収容所に入れられる。銃を持った警備員が監視する鉄条網で囲まれた収容所には粗末なバラックが立ち並び、水道は共同バスルームだけ。そんなミニドカ強制収容所には合計9,397人が収容されていた。現在は国定史跡となっているこの場所はヨコヤマさんはその著書
『When
Fish Fly』 で、「収容所での経験やその後に受けた差別に大きく影響を受け、成人したころには辛らつで怒りっぽい人間になっていた。そして、自分の中に育った恨みを、"幼いころにそんな差別の標的になったら、他にどんな人間になれるって言うんだ?"
と言うことで正当化していた」と記述している。
戦後にパイク・プレース・マーケットに戻ったヨコヤマさん一家は、魚売場の横のスタンドで野菜の販売を再開したが、ヨコヤマさんは学校を卒業後に食料品店で働きながら父親を手伝い、1960年に現在経営する 『Pike Place Fish』 に就職。当時の経営者が魚嫌いの息子にまかせたおかげで経営が傾き始めた同店を1965年に購入し、その後20年間にわたり毎日働き続けた。前述のように辛らつで怒りっぽかったヨコヤマさんは社内で威張り散らし、誉めることをせず、社員が「何をやってもあなたに満足してもらうことはできない!」と泣いたこともあったという。しかし、1986年に鮮魚の卸売りに手を出し、わずか9ヶ月で莫大な負債を抱えてしまったことが、ヨコヤマさんのその後の人生を大きく変えるきっかけとなった。義母からの借り入れで急場をしのいだが、友人の紹介で出会ったビジネス・コンサルタントのJim Bergquist 氏や社員たちと、シンプルなビジネス・モデルを編み出し実行することになったからである。「世界的に有名な魚屋になろう!」と最初に社員の1人が言った時はその場にいた全員が笑ったそうだが、「有名になるとは?」と話し合いを進めるにつれ、自分たちの哲学が生まれた。そのポイントは下記の4つ。
かつては新聞のスポーツ欄以外は読んだことがなく、大勢の人前で話すことも苦手だったというヨコヤマさんは、各地の企業などからの強い要請を受けるようになり、「ボス、やらなくちゃだめですよ」という一言で講演を行うようになった。そして、2004年には著書
『When Fish Fly(邦題:魚が飛んで成功がやって来た)』 を発売し、マクドナルド、BMW、ユニバーサル・スタジオ、ノキア、AT&T、米国陸海軍、ナビスコ、富士フィルムなど世界4000社がテキストに採用した経営ノウハウを一挙に紹介している。「自分は普通の人間。何の才能があるわけでもない。しかし、普通の人間でもアイデア次第で何かを大きく変えることができるのを、自分が証明している」と語るヨコヤマさんの哲学は、すでに世界中の多くの人の日常を変えている。日ごろの生活に倦怠感を覚えているという人は、この
『World Famous Pike Place Fish Market』 から生まれた本を読んでみよう。