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シンフォニー便り
シンフォニー便り
       
  筆者紹介:蒲生彩子さん(がもう・あやこ)
シアトル・シンフォニー/第1バイオリニスト
4歳のころにバイオリンを習い始め、8歳で桐朋学園大学の音楽教室へ。桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学を経て、1998年にボストンのニュー・イングランド音楽院学士課程に編入。2001年に同音楽院を優等で卒業し、同年にジュリアード音楽院修士課程へ。2003年の卒業と同時にオレゴン・シンフォニーに第1バイオリニストとして入団。2005年にシアトル・シンフォニーに第1バイオリニストとして入団し、現在に至る。詳細は、2005年12月の 『ぶらぼおな人』 で。
   
       


第1回 : オーケストラの構成と配置

Benaroya Hallアマチュア・オーケストラとして創立された1903年当時、わずか24人の楽団員しかいなかったシアトル・シンフォニーは、今では総勢91人を抱えるオーケストラに成長しました。この数は中級レベル以上のオーケストラにおいては平均的な人数です。

この "91" という数字だけ聞くと「そんなにたくさんいるの?」と驚かれる方も多いと思います。実際、この91人の楽団員全員が舞台に総出で出演することはほとんどないのですが(曲が作られた年代によって編成が異なるため)、それでも約80人が毎回出演しています。それにしても、舞台上で見るこの大集団、いったいどのように統率されて、1つにまとまっているのでしょうか。


役割分担

まず、楽団員たちがどのように役割分担されているのかをご説明しましょう。
  1. 弦楽器
    First Violin、Second Violin、Viola、Cello、Contra Bass
    それぞれの楽器(セクション)は8〜16人から成る。
  2. 木管楽器
    Flute、Oboe、English Horn、Clarinet、Bassoon
    各セクションは1〜6人。
  3. 管楽器
    Horn、Trumpet、Trombone、Tuba
    各セクションは1〜3人。
その他、Harp、Keyboard、Timpani、Percussionなども付け加えられます。

それぞれのセクションには "principal" と呼ばれるリーダーがおり、セクションのまとめ役を担います(音の強弱や音色、音程などを細かくチェックすると同時に、他の楽器との調整をしたりします)。さらに、"assistant principal"(副リーダー)が、"principal" のアシストをします。この人達は座る場所がいつも決まっています。ただし、例外がいくつかありまして、その例を挙げると・・・
  • その楽器を弾く人が1人だけというセクションでは、その人が "principal" となる。例えば Harp や Tuba がこれにあたり、リーダーとしての役割はなくても、たった1人で責任を担うという意味では納得。
  • First Violin のリーダーは "principal" ではなく、"concert master" と呼ばれる。セクション内だけでなく、オーケストラ全体を統率する役目もあり、指揮者の次に重要な人物。
セクション内の "principal" 以外の楽団員は "section player"、いわゆる「その他大勢」。ちなみにバイオリンは数週間に一度の頻度でセクション内のランダムな席替えをするシステムになっています。


セクションの配置

次はセクションの配置についてお話しましょう。これはオーケストラによってさまざまで、例えば、ファースト・バイオリンとセカンド・バイオリンは左手前に固まるアメリカ式(アメリカで20世紀に始まって以来、世界中に浸透している)、または1700年代からの伝統にならって両側に分かれるヨーロッパ式という2種類があり、議論の的になっています。

現在のシアトル・シンフォニーでは、ジェラルド・シュワルツ音楽監督が1987年に初めてヨーロッパ式の配置を採り入れて以来、今日まで来ています。ちなみに私が以前弾いていたオレゴン・シンフォニーや学生オケは、ほとんどがアメリカ式でした。アメリカ式では、ファースト・バイオリンとセカンド・バイオリンは1つに固まっていますので、セカンド・バイオリンの伴奏が断然聴き取りやすく、音が合わせやすいというメリットがあります。一方、ヨーロッパ式ではファースト・バイオリンの隣と後ろを低音がしっかり支えてくれるので、それはそれで全体的なバランスを取りやすいというメリットがあります。しかし、弾く側にとっては、アメリカ式とヨーロッパ式では勝手が異なるので、シアトルに来たばかりの時は戸惑いました。

「バイオリンがどっちに座っていようと観客にとってはたいして変わらないんじゃないの?」

もちろんその通りです。恐らく微妙な違いでしか表に現れないでしょう。まして音響効果が優れているベナロヤ・ホールでは、どのセクションの音もまんべんなくブレンドされて、客席に届いていると思います。

でも、この微妙な部分に目を向けると、意外に面白いことがわかります。ここでは、チャイコフスキーの交響曲第6番―悲愴―の第4楽章を例に挙げてみましょう。旋律と伴奏はバイオリンの両セクション(ファーストとセカンド)に分けて演奏されるのが通常ですが、この楽章の冒頭では旋律を各セクションによって一音ずつ交互に弾く手法が用いられています。『かえるの歌』 を例にこの方法で歌ってみると
(ファースト・バイオリンはひらがな、セカンド・バイオリンはカタカナ):

♪かエるノうタがー、キこエてクるヨー♪

というような具合です。つまり、バイオリンが両側に分かれているヨーロッパ式では旋律が左と右から交互に聞こえるはずなのです。アメリカ式の配置で演奏された場合、左手に固まったバイオリン両セクションから1つの美しいメロディーとして自然に流れるように客席に届くのですが、ヨーロッパ式ではセクション間の距離が原因でタイミングがずれたりし、ただでさえ「ちぐはぐ」になりがちなメロディーが、私が最も恐れる「崩壊の一歩手前の状態」に陥りかねなくなります。それでもあえてこの手法が作曲家によって用いられたのは、この旋律にこめられた「美しい物に秘められたあやうさ」という特徴を表現するためなのです。そのためには指揮者の技量はもちろんの事、演奏奢も「ちぐはぐ」にならないように細心の注意を払わなければなりません。

シアトル・シンフォニーでは、2006年の年明けの第1週目に、今回例に挙げたチャイコフスキーの交響曲第6番を演奏します。もちろん「ヨーロッパ式」配置ですので、私はこの4楽章を弾くことをひそかに楽しみにしています。

写真©Craig Richmond

(2005年12月)


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第 9回 楽団員は指揮者を見ているか?
第 8回 オーディション(2)
第 7回 オーディション(1)
第 6回 楽器と飛行機
第 5回 コンサート当日
第 4回 リハーサル
第 3回 オーケストラが公演に至るまで
第 2回
第 1回 オーケストラの構成と配置
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