意を決したように A 氏は「この特許の売却に協力できない」と一言。2人の間に沈黙が流れました。続いて「どうしても売却したいのなら俺に売れ」と1枚のエクセル・シートを机の上に滑らせました。そこには価格が簡単に書かれていました。今、思いつきで書いたようなメモのようなものでその数字は到底同意できるものではありませんでした。私はA氏のオフィスを黙って出ました。
その後、A氏から手紙が送られてきました。我々の事業売却決断の経緯を非難し、自分の行動を正当化する内容のものでした。弁護士に手紙を見せて A 氏を訴えることも含めて相談しましたが「あまり意味がない」とのことでした。A 氏に解雇の通知を出すと同時に彼の手紙への反論を記しました。出す前に弁護士にその反論内容を見せると「この手紙を出すことで君の怒りが多少なりとも収まるなら出した方がいいだろう」と諦め顔で言っていたのを思い出します。
この事件は私にいろいろな教訓を与えてくれましたが、やはり人を使う難しさというものを痛感させられました。米国、特に建築業界は訴訟が多いので、「訴訟に巻き込まれたくない」ということを A 氏に何回か話したことがあり、そういった人との争いごとを嫌がる気持ちの足元を見られたのかとも思いました。妻は「あなたにしては珍しく、いつもまでも根に持ってるのね」と言います。生きているとこんなこともたまにはあるでしょう、と自分に言い聞かせていますが、この事件を思い返すと、今もって何ともいえない気持ちになります。