さて、起業当時、我々が持っていた日米特許は薄型タイルの貼り付け工法でした。これまでの薄型タイルは接着剤で壁に貼り付けていたため、施工に時間がかかり剥がれやすいという欠点がありましたが、我々の新しい工法では特殊形状のタイルを壁に貼ったアルミニウムのパネルにはめ込んでいくという方法を取りました。この特許は日本では NHK の全国ニュースに取り上げられ、大手タイル・メーカーも興味を示してくれて実験施工をしたりしましたが、なぜか採用までにはいたりませんでした。後年に同様の工法を各タイル・メーカーが相次いで発売したところを見ると、アイデアとしては良かったのですが、タイミングが悪かったのかもしれませんし、大手メーカーとしては外部のアイデアを採用する事に対する抵抗があったのかもしれません。
初めて会った A 氏は私よりも5歳ほど年上の人なつっこい人物でした。建築資材の販売代理店経営や大手タイル・メーカーの全国販売責任者を経験した A 氏のアドバイスは的を得たもので、メーカーとセールス・レップの双方を経験した人だけが得られる販売網構築のコツは、ビジネス・スクールでとったマーケティングの授業とは一味違いました。どのように代理店を見つけるか、そしてやる気にさせるか、訴訟を回避するためどういった契約を結ぶべきかという話は、少し聞くだけで「これは本物だ」と感じさせるに十分でした。我々は初めは彼をアルバイトとして採用し、そしてほどなく正社員に昇格させました。この時点で自分たち独自のタイル販売網を作る決断をしたのです。
追記:
大手タイル・メーカーとのライセンス契約の交渉中に面白い体験をしました。ネブラスカ州の "ど" 田舎と言ってよい場所に本社がある大手 E 社の社長とミーティングしていた時のことです。昼過ぎごろに「今日は別のアポイントが入っているので、1時間程席を外していいか?」と聞かれました。いいかげん英語をしゃべることに疲れていた私は "Sure" と答えたのですが、何とそのアポイントとは散髪屋の予約でした。1時間後、綺麗に散髪して現れた彼を見て苦笑してしまいました。腹が立つような、笑ってしまうような、アメリカの田舎らしいのんびりした風景でした。