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今のダンナが日本に留学していた時、度重なる「アメリカにおいでー」攻撃にまんまとひっかかって、1999年6月、シアトルの土を踏む。「英語ができない」「友達もいない」と、うだうだ悲しい気分が続いていたものの、どうにか自分が幸せになる道を作らねば、と奮闘中。苦しまぎれに「つまんなーい!日本に帰る−(T_T)」と半泣きになってもびくともしないダンナ相手に、悔しいのであれやこれやと作戦を練る毎日を送っている。 |
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第49回 :
家を買うことにした: 迷い
遅れをとってはならぬ、とばかりに新着物件を鋭くチェックし、心に響くものがあればちゃっちゃと見学へ行った。私たちの予算で見つかるシアトル市内の物件は一癖ある強者物件ばかりであった。うーむ、一筋縄ではいかぬ相手よ。アノ手、コノ手で罠を仕掛けてくる。広い道路に面している、ダンナの頭がつっかえるほど2階の天井が低い、家の内壁が紫とピンク、床が傾いている、などなど。
並みいる築50年以上の物件ばかり見てきたが、すこし範囲を広げてみたところ、築4年の物件を見つけた。確かに広く、車通りの多い道路に面してはいるが、建物の築年数とバスのアクセスのよさを考慮するとなかなか条件のよい地域である。でもちょっと安すぎるかもしれない。もしかして自殺者でも出たいわくつきの家なのでは?と疑い深くなったが、ダンナに、
「そんなことは誰も気にしない」
と一蹴された。え、そうなの?私は気にするぞ。
やはり新しい建物はいい。現代の生活にマッチした広々としたクローゼットや部屋の間取り、屋根ももちろん新しいし、車庫は車2台分のスペース。ああ、家探しを始めたころにリアルターが連れて行ってくれたイーストサイドの物件がこんな感じだったなあ。シアトルのオンボロ小屋風の家がいい、と決めて今まで色々見てきたが、久々に新し目の物件を目の当たりにし、かなり心が揺れた。やっぱり修理ヵ所が少なそうでいいなあ・・・。まだ築4年だったら人間で言えば4歳。大正生まれの年寄りよりは健康だよねえ。
しかし、少し気になることがあった。その物件に行く途中、すぐ近所の角にある公園に十代の若者たちがたむろしていたことである。バス停はその公園のすぐ隣にあり、もしバスを使うとなれば、公園の脇を通らなければならない。グループでグダグダしている人たちの集まり場所の近くには住みたくないなあ。アパートだったら住んでいる場所が嫌になったらいつでも引っ越しできるが、持ち家だとそうはいかない。
その物件を見た帰り、もう一度公園の前を通ると、やはり若者がたむろしていた。うーん、こういう近所の環境だからあの物件は新しいにもかかわらずあまり高く売り出せないのだろう。家の価格は、周囲の環境の良さ・治安込みなんだよね。
私たちの住みたいと思う地域の家はどうみてもボロくて築60年以上のものばかりだ。建物の価値よりも土地の価値の方が高いに違いない。そんなにあちこち修理するんだったら、いっそのこと全部ぶっ壊して新しいのを建てればいいのに、と思うのだが、古くさい家々が何とかもち堪えて立ち並んでいるところを見ると、新築なんてそんなに簡単なことではないのだろう。
「やはり現実路線でいくしかないよ。予算を上げるか、もっと郊外の物件やタウンハウスも視野に入れた方が・・・」
アパートの賃貸契約を延長して、タイムリミットはあと1ヶ月。ここにきて作戦を練り直す必要があるのではないか?実は予算はもう少し上げることができそうだった。住宅ローンの金融機関がもう少し貸してくれる、と前から言っていたのだが、月々の返済額を考えるとそんなに借りていられない。借りるのは簡単だけど、後から返さなきゃいけないのだ(当たり前だけど)。
私としては、本当に今家を買うことが最善の選択なのか、という迷いがまた湧き上がってきた。月々の返済を考えると、どう計算しても現在家賃として支出している額の2倍となってしまう。家の購入を考えた当初、ダンナは、
「将来自分のものにならない賃貸アパートに月々支払よりは、自分の財産として家に投資する方がいい!」
と声高に宣言していた。当時、無知であった私は、そうか、そうか、アパートの家賃と同じ負担で持ち家が手に入るのなら、それはいいことだ、買いましょう、と安易に協力を申し出たのだが、いろいろ学ぶにつれ、そんなウマい話なんて存在しないことに気がついた。
ローンの頭金が30%に満たないため、月々抵当保険(mortgage insurance)なるものを払わなきゃいけないし、ローンの返済、建物保険、固定資産税、光熱費、リサイクル・ゴミ収集代、修繕費など諸々経費込みで月々の支払いを計算すると、およそ今の家賃の倍額になるでないの〜。それは話が違う!とダンナに詰め寄ると、
「今、住宅ローンの金利がとても低いからチャンスなんだよ。これを逃すとまた高くなるかもしれない」
と、今買わなければ一生後悔するのだ、という強い決意が見え隠れするのだ。
でもね、金利が低いのは低いけど、大して好きでもない、ボロい家を勢い余って買うのはいやだ。後で「しまった〜」と後悔しても返品できるほどお手軽じゃないのよ。だから、頭金をあと1年かけて貯めてですね、もうちょっと予算に余裕が出来てから買った方がもっと選択肢が広がるし、いいんじゃないんですかね、ダンナ〜?と持ちかけてみたが、
「来年になったらローンの金利が上がるかもしれない」
と何が何でもそんないい話を見逃してはならぬ、という執念を感じるのであった。完全に取り憑かれてるわ・・・。何がそこまで駆り立てるのか。ま、アンタが稼いだ金だから、あたしもその使い道にあまりどうこう言いたくないんだよね。
そんなおトク情報を逃すまいと必死になるダンナであったが、一軒家購入に関して何の不安もなかったわけではない。彼の職業は、そう、最近浮き沈みの激しいIT業界。その不況という嵐に翻弄される、小舟のような零細企業のプログラマーである。ここ数年の間に2回もレイオフの憂き目に遭った。今の職に辿り着くまで5ヶ月かかった。この先も安泰が続くと誰が保証してくれようか?今の勤め先が潰れたら、おそらく月々のローンの支払いは無理であろう。彼は、胸に秘めたそんな不安を漏らすことがあった。
そんな時、私はあっけらかんと勇気づけるのであった。
「アンタが次にレイオフになったら家を維持するのは無理だから、さっさと売って、いい機会だから次は日本に住もう。北海道なんていいんじゃない〜?冬は寒いけど温泉もあるし、カヤックもハイキングも楽しいよ〜」
そんなこと言って、ホントは日本に住みたいだけじゃないか、とダンナは胸クソ悪そうに上目使いでこちらを見ている。いやいや、私はただレイオフなんて心配するな、と言いたいだけですの。何事もポジティブに考えなきゃ、ホホホ。
確かに、シアトルに家を買ったら日本に簡単に引っ越せなくなるからヤダな、と思っているのは本当である。そのことを訴えると、
「じゃ、この家を売ったら、次は日本に家を買おう」
とダンナは言い放った。ばかやろう。そんなに簡単に家が買えるなら、日本のサラリーマンは苦労してませんよ・・・。日本じゃ、「家は一生に一度の買い物」と言われてるんだから。
実は、ダンナが以前レイオフになった会社には日本支社があり、彼は転勤希望を出していたのだ。時期がくれば数年以内に転勤だろう、と言われていたのだが、前述の通り彼はレイオフになったのでその計画は立ち消えとなった。シアトルは好きだし、アメリカでの生活が主となるだろう、と覚悟はしているものの、チャンスがあれば数年は日本に住みたいなあ、とずっと思っていたのだ。私がこの数年アメリカで耐え忍んだのだから、また少しの間日本で生活して「ガイジン」の気持ちを思い出すがいい、と恨み言のように呟いていたのだが、世の中そうもうまくいかない。レイオフになったのはしょうがない。人生、どうにもならないこともあるさ。
そんな迷いを抱きつつも、目を付けていたエリアに売り物件が出た。早速リアルターに電話を入れ、見学に連れて行ってもらったその日は、どんより淀んだ空に小雨がぱらつく、典型的なシアトルの朝だった。
(つづく)
注)当ページに記載されている内容は個人の一意見です。この情報に基づいて行動した結果なんらかの損害が発生した場合においても、執筆者およびジャングルシティは一切責任を負いません。記載された情報を活用される場合は、あらかじめ専門家に照会するなど必要な確認を行った上、ご自分の責任で判断していただきますようお願い申し上げます。
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