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  今のダンナが日本に留学していた時、度重なる「アメリカにおいでー」攻撃にまんまとひっかかって、1999年6月、シアトルの土を踏む。「英語ができない」「友達もいない」と、うだうだ悲しい気分が続いていたものの、どうにか自分が幸せになる道を作らねば、と奮闘中。苦しまぎれに「つまんなーい!日本に帰る−(T_T)」と半泣きになってもびくともしないダンナ相手に、悔しいのであれやこれやと作戦を練る毎日を送っている。    
       


第39回 :「人の話を聞いてるの?」 (前編)


我が家では大きな机の上に2台パソコンが並んでいて、夫婦が隣合ってパソコンに向かっている。彼が隣でインターネットをしながらオタクな笑い声をあげているのを、

「気持ち悪い・・・」

と思うこともしばしば。2人とも何かに熱中している時は、話しかけられてもあまり聞いていない。興味のない話は聞き流す特殊フィルターが耳に装備されているので、ちゃんと聞いてほしい時には、

「ちょっと、聞いてんの?」

と注意深く、こちらの話に頭脳が回転していることを確認しながら話を進めなくてはならない。そして念のため、後でEメールを送る、というフォローまでしないと、大事な用事があるときには安心できない。

ダンナの場合、話を聞いていない、というよりは、彼の中で優先順位が低いものはおそるべき速さで記憶が風化していく、と言ったほうが正しいかもしれない。彼にとってはたわいのないことでも私にとっては大事なことである場合、彼が忘れっぽい、ということをこの数年間の経験から学習した私でも時々は腹立たしいのである。

やっかいなのは、善良な彼の両親の場合である。最近会うたびに話題となるのは、「家購入」「ビジネス開業」「孫」である。

「家購入」に関しては、まあ、毎月アパートに賃貸料を自分のものでもない部屋に払うよりも、自分の財産になる持ち家のローンを投資と思って払ったほうがいい、という意見も理解できる。住宅控除も適用されるし、どうせ出て行く金額が同じなら自分のために使ったほうがいい、という理屈もわかる。それでも今ひとつ煮え切らない訳は、貧乏性の私は将来的にお得とわかっていてもデカイ借金をガーンと突きつけられるのがいやなのだ。それともっと掃除とか庭の手入れをする手間もめんどくさい。どうせ買うならタウンハウスやコンドよりも持ち家、と言われると、さらにメンドクサイ・・・、と萎えてくるのだ。

あと、やたらとビジネス開業を勧めてくる。そりゃねえ、開業するのは簡単よ。でも利益を上げるのは大変よ〜。義父の自慢は、彼は今まで一度も人の元で働いたことがなく、ずっと自営業だったことだ。彼の祖父が自営業者であり、彼は子供の時からどうやったら儲けられるか、ということをずっと考えていたそうだ。すごい子供である。でも人と一緒に働くってことも大切で、ビジネスを始める前にどこかで経験を積んで実際に業界を体験してから開業しないと、だれも私の経歴を見て仕事くれるとは思えないんだけど、という私の話にゃ耳を貸さない。
「僕も初めは誰も知り合いがいないところから始めた。でも今はこうやって成功している。君はビジネスを始めることを怖がっているだけだ」
ハイハイ。もう彼を止める術が私にはない。

もうひとつはかなり遠まわしであるが、「子供はいつ産むの〜?」というやつである。そんなこと言ったって、子供産むのはあたしで、産みっぱなしってわけにゃいかないでしょう?育てなきゃだめなのよ。

「今何歳?」
「???」
「生物学的時間には限界があるよ」
「・・・・」

つまり早く子供を産めってことね?あたしだってわかってんのよ。先送りにするにも限界があるってこと。でもねぇ、学校に行って仕事探して、子供産んだ後も職場に復帰できるような環境を作ろうと人生設計してんのよ。だいたい何のために学校に行ってると思ってるの?子供欲しかったらもうさっさと産んでるってば。

こういったことについて会うたびに説明するのはうんざりする作業なのである。彼らに悪気がないのはわかっているので尚更である。唯一の救いは、私が口がすっぱくなりすぎるほど何度も説明した甲斐があって、ダンナは上記の3つについては私の意見をわかっていてくれたことだった。

そう、彼は私の話をちゃんと聞いてくれていると信じていたのだ。その時までは。

ある日、彼の両親とチャイニーズレストランで落ち合うことになって、そこに向かって車を走らせていたときだ。彼がこう言った。

"You should have been younger."

結婚したはいいけど、これからのキャリアを考えたプランのために私は忙しく、仕事に慣れたら次は子供で忙しくなるだろうし、もっとあたしが若かったらなあ、ということらしい。その上、家購入にはかなり乗り気なようだ。

がーん・・・。
あんた、3歳年上の外国人妻と結婚しておきながら何言ってんのよ。あたしの今までの努力を何だと思ってんの。日本に住んでたら日本語で働けるし、こんなに遠回りしてなかったのに。この人は私の今までの恨みがましい愚痴の数々を全部聞き流していたんだろうか・・・。あまりにも心無い発言に感じた。

私の中で、ピキーンッ、と何かを堰き止めていたつっかえが吹き飛んだような気がした。

続く


■ ■ ■

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最終回 ふと気がつけば5年目
第53回 家を買うことにした "買った後の修理費"
第52回 家を買うことにした "もうこれでいいや"
第51回 家を買うことにした "3度目のオファー・2度目のインスペクション"
第50回 家を買うことにした "3回目のオファーを出す前に"
第49回 家を買うことにした "迷い"
第48回 家を買うことにした "強気な売り手"
第47回 家を買うことにした "2度目のオファー・初めてのインスペクション"
第46回 家を買うことにした "ふりだしに戻る"
第45回 家を買うことにした "初めてのオファー"
第44回 家を買うことにした "住みたい場所、見つけた"
第43回 家を買うことにした "物件を探し始める"
第42回 家を買うことにした "序章"
第41回 「2人単位」
第40回 「人の話を聞いてるの?」 (後編)
第39回 「人の話を聞いてるの?」 (前編)
第38回 「効率的」と「がさつ」の境界線
第37回 要はしつけ次第
第36回 新年の抱負は達成されるか?
第35回 ガイジンの私と移民局(その2)
第34回 ガイジンの私と移民局
第33回 里帰り
第32回 服を買いに行こう
第31回 ケーキ作りへのあくなき挑戦
第30回 I'm honest, but I'm not popular.
第29回 ダブルカヤック
第28回 イベント
第27回 オリンピック
第26回 これは・・・使えるな
第25回 今年の正月
第24回 お金に対する感覚
第23回 Pink slip
第22回 嫌われる国際結婚女
第21回 言い訳できないアメリカ
第20回 夏の生活
第19回 親知らずを4本抜いた
第18回 ライバル登場
第17回 アメリカのOtakuたち
第16回 ハイキング
第15回 シアトル化
第14回 私の家族との初対面
第13回 今年の正月は日本に行ってやるぞ
第12回 2人でカウンセリングに行きました
第11回 日本ぽい料理
第10回 人の嫌がることはしないようにね
第 9回 カタカナと正しい発音
第 8回 それ恥ずかしくない?
第 7回 良いサービス?悪いサービス?
第 6回 コミュニケーションのデジタル化
第 5回 Rob the cradle
第 4回 We are in the same boat
第 3回 言葉摩擦
第 2回 気遣いスイッチ
第 1回 国際結婚、はじまりはじまり・・・
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