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  今のダンナが日本に留学していた時、度重なる「アメリカにおいでー」攻撃にまんまとひっかかって、1999年6月、シアトルの土を踏む。「英語ができない」「友達もいない」と、うだうだ悲しい気分が続いていたものの、どうにか自分が幸せになる道を作らねば、と奮闘中。苦しまぎれに「つまんなーい!日本に帰る−(T_T)」と半泣きになってもびくともしないダンナ相手に、悔しいのであれやこれやと作戦を練る毎日を送っている。    
       


第29回 : ダブルカヤック


晴れやかな日差しが気持ちのよい季節が巡ってきた。わーい、今日もすっきり、さっぱり、美しい1日だわ、と喜ぶのはいいが、実は遊びに行きたくてしょうがなくなるので、平日の晴天を見上げながら複雑な気分になるのだ。これで週末の天気が崩れると、
「ああ、あの平日の天気を取っておいて、今日のと入れ替えれたらいいのに・・・」
と心底思う。

シアトルに来て最初の年にダンナとカヤックを始めた。ダンナの家族が2人用のダブルカヤックを所有していたのがきっかけで、ハイキングシーズンが過ぎたあたりの曇り空の下、2人でカヤックを持ってこのへんの湖へそそくさと出かけていた。しかし、この頃の私たちにとっては、カヤックを楽しむどころか絶好のケンカ場所になっていた。まあ、夫婦間、または家族間で車の運転を教えてもらうときによくケンカになるのと同じようなものである。背後からアニメで覚えた日本語のありとあやゆる怒りの語彙をまくし立てるダンナに、私は切れまくっていた。このときの状況は、このエッセイの"We are in the same boat."にも書いたことがあるが、"The History of Arguments"として私たちの間では語り継がれている。

そこで去年、カヤックを新たに購入するにあたり、絶対シングルカヤックにしよう!と私たちは心に決めていた。さらに、アパートの管理人との交渉決裂により、カヤックの置き場所が確保できなかったので、フォールディングカヤックを買うことにした。早い話、使わないときは折りたたんででかいリュックの中に入れて保管できるからである。購入当初、そのスタイリッシュな外見、後ろからゴチャゴチャ言うやつがいなくなった開放感に幸せを噛み締めていた。しかし、数ヶ月も経過するうちあることに気づいた。それは「めんどくさい」のである!

まず、早く出発したくても組み立てないことには遊びに行けないし、不器用でトロイ私には組み立てに30分ぐらいかかってしまう。そしてドロドロに疲れて帰ってきても、片付けないことには帰れない。車の上にどさっと積んで、さっさとメシを食いに行くこともままならない。そしてもうひとつ、シングルカヤックの場合、「サボれない」のである。つまり、当たり前の話だが、疲れても自分で漕がなければならないのだ。ダブルカヤックの時は疲れたら「ダンナよ、よろしく〜」とサボって写真を撮ることもできたが、シングルだと逆風の時でも誰も助けてくれないので、とにかく漕ぎまくらなければならない。

先月、サンファン諸島にダンナの友達と3人でカヤックに出かけた。シングル1艇とダブル1艇である。私はダブルの前に陣取りチンタラと漕いでいた。シアトル近郊の湖ならシングルでも楽しいのだが、海となると実はちょっと怖いのだ。サンファン諸島の複雑な、幾種類もの潮の流れ、所々で見るグルグル渦巻く海水をカヤックの布を通して感じたとき、大自然にとってはちっぽけな舟1艘なんて生きるも死ぬも大した出来事じゃないような錯覚に陥る。実際、この付近では毎年死亡事故が発生している。まあ、そのほとんどが悪天候における無理な決行にあるのだが。その点、2人だと安心感がある。多少の逆風でも2人で漕げばそれほど苦じゃない。うーん、シーカヤックをするならダブルカヤックがいいなあ、と背後のダンナに話しかけてみると、
「・・・・」
と複雑な表情をしている。そう、体力もあり、カヤックの組み立てもさっさとできる彼にとってはフォールディングカヤックはめんどくさくも何ともない。むしろ、うるさい妻から開放され、自由にすいすいと行けるシングルカヤックの方が楽しいのだろう。ちぇっ、"We are in the same boat."なーんてかっこいいこと言ってたくせに。

帰ってきてから、ダンナの両親と食事をする機会があった。「サンファン諸島はどうだった?」と聞かれ、
「いやー、ダブルカヤックはいいですねえ。なによりも彼と一緒で安心感があって〜」
とさりげなくチクッてみた。
「ほらー、やっぱり彼女にはダブルカヤックの方がいいって言ったじゃないの」
そう、当初から彼らは私たちにダブルカヤックをすすめていたのだ。私はダンナがこの両親の説得に弱いことを知っている。ふふふ。こういう時に使わせていただくのは悪くない。私も賢くなったもんだわ。ダンナはうっ、と詰まり、あ〜、う〜、とうなり、
「そうだね・・・ダブルカヤックもいいね・・・」
わーい。作戦成功。今年はまたダブルカヤックでの旅行が復活するかもしれない。でも"The History of Arguments"は復活してほしくないなあ。歴史は繰り返すっていうけれど・・・。


■ ■ ■

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最終回 ふと気がつけば5年目
第53回 家を買うことにした "買った後の修理費"
第52回 家を買うことにした "もうこれでいいや"
第51回 家を買うことにした "3度目のオファー・2度目のインスペクション"
第50回 家を買うことにした "3回目のオファーを出す前に"
第49回 家を買うことにした "迷い"
第48回 家を買うことにした "強気な売り手"
第47回 家を買うことにした "2度目のオファー・初めてのインスペクション"
第46回 家を買うことにした "ふりだしに戻る"
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第44回 家を買うことにした "住みたい場所、見つけた"
第43回 家を買うことにした "物件を探し始める"
第42回 家を買うことにした "序章"
第41回 「2人単位」
第40回 「人の話を聞いてるの?」 (後編)
第39回 「人の話を聞いてるの?」 (前編)
第38回 「効率的」と「がさつ」の境界線
第37回 要はしつけ次第
第36回 新年の抱負は達成されるか?
第35回 ガイジンの私と移民局(その2)
第34回 ガイジンの私と移民局
第33回 里帰り
第32回 服を買いに行こう
第31回 ケーキ作りへのあくなき挑戦
第30回 I'm honest, but I'm not popular.
第29回 ダブルカヤック
第28回 イベント
第27回 オリンピック
第26回 これは・・・使えるな
第25回 今年の正月
第24回 お金に対する感覚
第23回 Pink slip
第22回 嫌われる国際結婚女
第21回 言い訳できないアメリカ
第20回 夏の生活
第19回 親知らずを4本抜いた
第18回 ライバル登場
第17回 アメリカのOtakuたち
第16回 ハイキング
第15回 シアトル化
第14回 私の家族との初対面
第13回 今年の正月は日本に行ってやるぞ
第12回 2人でカウンセリングに行きました
第11回 日本ぽい料理
第10回 人の嫌がることはしないようにね
第 9回 カタカナと正しい発音
第 8回 それ恥ずかしくない?
第 7回 良いサービス?悪いサービス?
第 6回 コミュニケーションのデジタル化
第 5回 Rob the cradle
第 4回 We are in the same boat
第 3回 言葉摩擦
第 2回 気遣いスイッチ
第 1回 国際結婚、はじまりはじまり・・・
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