シアトルに来て最初の年にダンナとカヤックを始めた。ダンナの家族が2人用のダブルカヤックを所有していたのがきっかけで、ハイキングシーズンが過ぎたあたりの曇り空の下、2人でカヤックを持ってこのへんの湖へそそくさと出かけていた。しかし、この頃の私たちにとっては、カヤックを楽しむどころか絶好のケンカ場所になっていた。まあ、夫婦間、または家族間で車の運転を教えてもらうときによくケンカになるのと同じようなものである。背後からアニメで覚えた日本語のありとあやゆる怒りの語彙をまくし立てるダンナに、私は切れまくっていた。このときの状況は、このエッセイの"We
are in the same boat."にも書いたことがあるが、"The History of Arguments"として私たちの間では語り継がれている。
先月、サンファン諸島にダンナの友達と3人でカヤックに出かけた。シングル1艇とダブル1艇である。私はダブルの前に陣取りチンタラと漕いでいた。シアトル近郊の湖ならシングルでも楽しいのだが、海となると実はちょっと怖いのだ。サンファン諸島の複雑な、幾種類もの潮の流れ、所々で見るグルグル渦巻く海水をカヤックの布を通して感じたとき、大自然にとってはちっぽけな舟1艘なんて生きるも死ぬも大した出来事じゃないような錯覚に陥る。実際、この付近では毎年死亡事故が発生している。まあ、そのほとんどが悪天候における無理な決行にあるのだが。その点、2人だと安心感がある。多少の逆風でも2人で漕げばそれほど苦じゃない。うーん、シーカヤックをするならダブルカヤックがいいなあ、と背後のダンナに話しかけてみると、
「・・・・」
と複雑な表情をしている。そう、体力もあり、カヤックの組み立てもさっさとできる彼にとってはフォールディングカヤックはめんどくさくも何ともない。むしろ、うるさい妻から開放され、自由にすいすいと行けるシングルカヤックの方が楽しいのだろう。ちぇっ、"We
are in the same boat."なーんてかっこいいこと言ってたくせに。
帰ってきてから、ダンナの両親と食事をする機会があった。「サンファン諸島はどうだった?」と聞かれ、
「いやー、ダブルカヤックはいいですねえ。なによりも彼と一緒で安心感があって〜」
とさりげなくチクッてみた。
「ほらー、やっぱり彼女にはダブルカヤックの方がいいって言ったじゃないの」
そう、当初から彼らは私たちにダブルカヤックをすすめていたのだ。私はダンナがこの両親の説得に弱いことを知っている。ふふふ。こういう時に使わせていただくのは悪くない。私も賢くなったもんだわ。ダンナはうっ、と詰まり、あ〜、う〜、とうなり、
「そうだね・・・ダブルカヤックもいいね・・・」
わーい。作戦成功。今年はまたダブルカヤックでの旅行が復活するかもしれない。でも"The History of Arguments"は復活してほしくないなあ。歴史は繰り返すっていうけれど・・・。