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  今のダンナが日本に留学していた時、度重なる「アメリカにおいでー」攻撃にまんまとひっかかって、1999年6月、シアトルの土を踏む。「英語ができない」「友達もいない」と、うだうだ悲しい気分が続いていたものの、どうにか自分が幸せになる道を作らねば、と奮闘中。苦しまぎれに「つまんなーい!日本に帰る−(T_T)」と半泣きになってもびくともしないダンナ相手に、悔しいのであれやこれやと作戦を練る毎日を送っている。    
       


第23回 : Pink slip


カタカナで「ピンクスリップ」と書くと、何ともセクシャルな匂いが漂うのだが、実はそんなふざけたことを言えるような意味の言葉ではない。最近、巷でさかんに行われている"Lay off" というやつである。

それはある日家にもやってきたが、突然のようで、突然ではなかった。ダンナはだいじょーぶ、だいじょーぶ、と他人事のような顔をしていたが、私はいつか家にもやってくるだろーなあ、と薄々感じていた。できれば来てほしくない訪問者であった、がしかし、相手の意思を変えることは難しいものだ。

ある日の夕方、車の中で、
"I have a bad news."
とダンナが切り出してきた。ほう、ナンダ?と返事するまもなく、
"I got laid off today."
ときた。ああ、ついに来てしまったのね。気を遣ってわざわざこなくてもいいのに。驚いた、というよりは最近どこの会社も景気悪いのねえ、とつくづく実感した、という感じであった。よくのぞいているインターネットの掲示板でも
「レイオフになりました」
という無念の書き込みがちょくちょくあったので、いつかダンナにも起こるかもしれない、と覚悟はしていたのだ。もしダンナがレイオフになったら何て言うべきか?やはりアメリカ的に"Everything is gonna be all right!" 調かしら。個人的な好みとしては、悩んでるときに能天気にそう言われるのは好きじゃないのだが、彼はアメリカ人だからこの路線で行くべきかなあ、と、実際に起こった場合に備えて用意をしていたのだ。我ながら用意周到な行動である。

彼の話を聞いてみると、彼のマネージャー2人を含め13人、1チームすっぱり切られたそうである。そう言えば、彼らの開発していたソフトウェアをクライアントのある会社が買わないことに決めた、と彼が前に言っていたのを思い出した。そのころから私は彼らのレイオフを予感していたのかもしれない。働いていた当の本人は、のほほ〜ん、としていたのであるが。
そのレイオフになった日の朝は、
「今日は朝9時からミーティングがある」
と言って彼は会社にでかけて行った。へえ、何の会議?と尋ねると、
「おそらく新しいプロジェクトについてじゃないかなあ、多分。本社からも偉い人が来るから遅刻しないよーにしなきゃ」
という内容の会話をしていたのである。そして彼らはそこでレイオフを告げられたわけだ。

私は学生で、今は働いていない、非生産の身である。私たちは子供がいないので、夫婦2人の暮らしさえなんとかなればそれでいいのだ。私だって働こうと思えば、選り好みしない限り職はあるし、学校も中断してもいつでも戻れる。だから生きることには不安はない。彼に言わせると、
「新しい仕事が見つかるのはわかってる。ただ、そのプロセスが苦痛」
ということらしかった。確かに、レジュメを出しまくって、リクルーターからの電話を待って、面接して、そのあと雇用先の面接担当者と面接して、来るか来ないかわからない結果の電話を待って、という一連のプロセスは本当に苦痛である。私が日本の大学を卒業したときは『就職氷河期』と呼ばれた時期であった。こんな図太い神経を持っていると自認している私でさえ、就職活動・新入社員時代の2年間で人生初めて婦人科系の不調から発熱・嘔吐・生理不順で病院のお世話になったのだ。思い出しただけで憂鬱になってくる経験である。

その後、レイオフになるまでの2週間の間、私はジャングルシティの大野さんおすすめの、『ダンナにせめてうまいメシでも作ってあげようじゃないか作戦』を敢行し、彼はレイオフになった翌日から、レジュメをインターネットでいろんなところに送るなど就職活動を開始した。レイオフになるまで2週間あり、すでにやるべき仕事も片付き、会社に行く必要もないので毎日休日状態であった。しかし、憂鬱で何かをする気分になれない、と毎日ソファーに横たわって図書館から借りてきた本を読む毎日。そして、2冊目を読み終わる頃、同じ会社内の違うポジションを獲得し、結局そこに落ち着くことになった。同じ会社内といえど、4時間くらいの面接を2回くらいやったそうだ。それを聞いて、私は自分が近い将来アメリカで就職活動することを考えるとめまいがした・・・・。

ところで昨日の夕食の時、
「何で『ピンクスリップ』って言うのかなあ?赤の方がもっと危機感があると思うんだけど。サッカーも『レッドカード』っていうし。」
と、どーでもいいことをつぶやいてみた。
「赤い紙だと字が読みにくいでしょ」
当たり前だろそんなこと、という様子で彼は言った。 本当にそういう理由なのかなあ・・・・。


■ ■ ■

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最終回 ふと気がつけば5年目
第53回 家を買うことにした "買った後の修理費"
第52回 家を買うことにした "もうこれでいいや"
第51回 家を買うことにした "3度目のオファー・2度目のインスペクション"
第50回 家を買うことにした "3回目のオファーを出す前に"
第49回 家を買うことにした "迷い"
第48回 家を買うことにした "強気な売り手"
第47回 家を買うことにした "2度目のオファー・初めてのインスペクション"
第46回 家を買うことにした "ふりだしに戻る"
第45回 家を買うことにした "初めてのオファー"
第44回 家を買うことにした "住みたい場所、見つけた"
第43回 家を買うことにした "物件を探し始める"
第42回 家を買うことにした "序章"
第41回 「2人単位」
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第38回 「効率的」と「がさつ」の境界線
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第36回 新年の抱負は達成されるか?
第35回 ガイジンの私と移民局(その2)
第34回 ガイジンの私と移民局
第33回 里帰り
第32回 服を買いに行こう
第31回 ケーキ作りへのあくなき挑戦
第30回 I'm honest, but I'm not popular.
第29回 ダブルカヤック
第28回 イベント
第27回 オリンピック
第26回 これは・・・使えるな
第25回 今年の正月
第24回 お金に対する感覚
第23回 Pink slip
第22回 嫌われる国際結婚女
第21回 言い訳できないアメリカ
第20回 夏の生活
第19回 親知らずを4本抜いた
第18回 ライバル登場
第17回 アメリカのOtakuたち
第16回 ハイキング
第15回 シアトル化
第14回 私の家族との初対面
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第12回 2人でカウンセリングに行きました
第11回 日本ぽい料理
第10回 人の嫌がることはしないようにね
第 9回 カタカナと正しい発音
第 8回 それ恥ずかしくない?
第 7回 良いサービス?悪いサービス?
第 6回 コミュニケーションのデジタル化
第 5回 Rob the cradle
第 4回 We are in the same boat
第 3回 言葉摩擦
第 2回 気遣いスイッチ
第 1回 国際結婚、はじまりはじまり・・・
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