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  ジャングルの記念すべき21世紀の門出とともに、私のささやかなエッセイをスタートさせて頂くことになりました。留学という形でシアトルにやって来て、言葉、文化の大障壁と闘うこと1年と3ヶ月。その間には、誰でも陥るようなどん底ホームシック、なにもかもが楽しいふわふわ状態、言葉のフラストレーション大爆発、など山あり谷あり。森や丘、海や湖に囲まれながらシアトルで生活していると、日本では思いもしなかったようなことについてゆっくりと考える時間があります。そんなシアトルで考えたこと、体験したことをみなさんに毎月お届けしていきます。    
       


第10回:9月11日


10月は何について書こうかと思案しましたが、9月11日から私の頭の中を占めていたのはあの恐ろしいテロ事件がほとんど。当然、他のおもしろい経験や考えが入り込む余地などありませんでした。では何について書けばいいのか?戦争するべき・するべきでないなどと私がここで論じるまでもないようです。ジャングルの掲示板ではあらゆる考えを持つ人たちが熱心にディスカッションしていることですから。ということで今回は、この事件について私(日本人)の考えることと彼(アメリカ人)の考えることを書いてみることにしました。

9月11日早朝のまだ寝ている時間に、普段まったくといっていいほど電話などしてこない日本の親から突然電話がありました。「テレビをつけて!アメリカめちゃくちゃよ!」と母親が興奮しながら言っています。なんだか大変な事が起こったようで、「え、地震?何?ねえ、何よ?地震なん?どこで?」と、とっさにアメリカのどこかで阪神大震災規模又はそれ以上の大地震が起こったのだろうと思いました(阪神大震災の際、やはり早朝に電話で起こされてテレビをつけるように言われたのがトラウマとなっています)。何があったのか聞き出そうとしましたが、電話口の母親も興奮していてなかなかテロ事件であることを言ってくれません。そうこうしているうちにテレビをつけると、みなさんが何度も見たであろうあの映像が目に入ってきました。

おそらくみなさんと同じく、私も目を疑いました。「一体これは何なの?夢?ウソでしょお?」一体、世界中の何十億の人がこの時同じ感覚を覚えたのでしょう。そんな感覚、共有したくもない。しかし時間が経つにつれて現実であるということを徐々に把握していく・・・これもヒーリングのプロセスなのでしょう。

そんなショック状態から少し正気に戻ったころ、テレビでは「断じてテロを許さない!テロ組織を保護している国でもなんでも許さない!アメリカは自由を守るために断固戦う」という論調をよくみかけるようになり、星条旗がそこここにはためくようになっていました。私が疑問に思ったのは、「断固としてテロと戦うのはいいけどさ、どうしてこれが単純に愛国主義に結びつくの?別に愛国主義が悪いってわけじゃないけど、60ヶ国以上の人が犠牲になってるんだし、アメリカがアメリカのためにがんばっちゃうより、世界の問題なんじゃないの?国連の旗でも立てて、哀悼の意をあらわしたっていいんじゃない?」ということでした。そして私はこの疑問を彼にぶつけたのです。

彼は、「でも、アメリカの本土を攻撃されたんだからやっぱりアメリカが攻撃されたんだよ。僕たちは今回の事件でとてもショックを受けて悲しんでいるんだ。そんな時、助け合っていこうとするから共通の国旗を掲げて共通の国を愛していくことで心の支えにしているんだから、そんなこと言うな」と反撃。私としては単に疑問に思ったまでのことだったのですが、なんだか傷ついている人々に対して思いやりのない発言だったかしら?と思えて申し訳なくなりました。とりあえず喧嘩にならないよう、「そうかなー。でもまあ、私としてはみなさんの愛国心をどうの言っているんじゃなくて、ただ、こんな場合、日本では日の丸掲げるだろうか?と思ったときにそうはしないだろうから、単純に不思議に思っただけなんだけど」などと答えておきました。

ちなみに彼は事件以来、「あいつ(主謀者であるとされている人物のこと)、俺が殺してやる!許さん!」といつも言っています。「でもさ、1人殺したって、次の人が指導者になるんだよ」と私が言うと、「じゃあ、次のやつも、その次のやつも皆殺しにしてやる!」と怒っています。多くのアメリカ人同様、彼は本当に怒っています。私は、怒りよりも悲しみの方を強く感じます。これも『傍観者』だからでしょうか。私が悲しいのは何よりも、これが「人が意図的にやったこと」だから。これが地震などのような自然災害だったらどんなにましだったことか。同じ数の人が犠牲になったって、自然相手では憎むに憎めない。

戦争が始まるのか、始まるとしたらいったいどんな種類の戦争になるのか。戦争が始まってほしくないのは私も彼も一緒。先日、井伏鱒二原作の『黒い雨』をレンタルして2人で見ました。これは広島の原爆がテーマです。登場人物で被爆者である男性がラジオで朝鮮戦争の放送を聞きながら、「人間っていうのはいつまでたっても学ばない。戦争はいやだ。正義を通すための戦争より、不正義の平和の方がいい」と言うくだりがあります。彼はこの言葉に関して何のコメントもしていませんでしたが、もしコメントを求めていたら「もちろん罪もない人々を巻き添えにするのはよくないことだけど、自由や平和を獲得するためにはあえて戦わないといけないときがあるのだ」と言うのだろうかと思いました。でも、この言葉に対して彼がコメントせず黙っていたのは、どこかで「やっぱり罪もない人を巻き添えにするってことがこんなに悲惨なことなんだな」ということを、悲惨な状況を映像で見て(映画ですが)感じたからに違いないと私は思うのでした。


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