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1996年にシアトルに引っ越してきたが、まだ「アメリカはこれだから・・・」と、外からアメリカを見ている。アメリカ人の夫も、「日本だとこうなのに〜」という妻の愚痴にも慣れた様子。もちろん、たまには家庭内日米摩擦が生じることもあるが、能天気で幸せな、2児の母である。
第3回 : 作法と習慣 - ご飯は左?それとも右?
「いただきま〜す!」
我が家ではアメリカ人の夫も、もちろん子供達も、食前の挨拶をするようにしている。そして、和食の時はお箸を片手に、もう片方の手ではお茶碗を支えるか持ち上げるように教える。しかし、洋食の場合はお皿を持ち上げさせない。子供にとっては大いに混乱する食事作法に違いない。しかし、
「日本の方がお行儀がいいね」
ある日、6歳になる息子が言った。皿に口をつける方が下品な気もするので、どうしてそう思ったのか理由を聞いてみた。すると、お皿に口をつけて食べる方法なら、フォークで食べ物を突き刺して口に運ぶよりは食べ物を落とす確率が断然に低いからだそうだ。
「なるほど〜」
納得している私の横で、お椀に口をつけてお味噌汁を飲みつつも、ツーッと口の端からこぼしている下の子の姿が。どっちにしたって下品な場合もあるんだな・・・。
今日も元気に「いただきま〜す!」と食事を始めようとして、ふと子供達のご飯に目をやったとき、
「ん?何かが変・・・」
良く見てみると、上の子用と下の子用の茶碗が逆なのだ。実家では、箸や茶碗はもちろんのこと、グラスや湯のみもどれが誰のか決まっており、それを当然のように自分の家庭でも取り入れている。そういう日本人家庭も多いのではなかろうか。
「アメリカ人の家庭では、これは僕のフォ?ク、このディナー・プレートは私の物なんて決めないんだよ」 夫にそう言われて、ハタと気付いた。確かにそうだ。子供用のかわいいお皿やフォークはあれども、大人用に各自専用のフォークや皿を準備したりはしない。
「どれで食べようが飲もうが、味は一緒じゃないかー」
と言う夫を尻目に、子供達の茶碗をさっさと取り替える私。
ご飯を左側、お吸い物を右側に並べるのも、私にとっては重要なこだわりだ。
ここでも夫は
「どっちに置いても味は一緒じゃないかー」
と言い張り、しかも彼の場合ご飯は右側に配置しないと落ち着かないらしい。が、こっちだって落ち着かない。夫が台所へ立ったすきに、ささっと配置替えをする私。食卓に戻り、またそれを戻す夫。確かにどっちだって味は一緒だが、お箸が右手なら茶碗は左手と決まっている。子供が自然に見て覚える可能性が大きいので直したい。いわば、私の習慣を無理強いている。
洋風に、メインディッシュの前に味噌汁だけを出す日本食レストランが多い。アメリカに来たばかりの頃は非常に驚いた。
「お味噌汁はご飯と一緒に頂くもんだ」
今でもそう思っているが、この場合だと、お吸い物は右側に・・・という配置問題は解消される。しかし、味噌汁を食前に、しかもスプーンですくって飲むことだけはやっぱり許せない。味噌汁は確かにそのまま訳せば "miso soup"だが、私にとってはコーン・スープなんかとは明らかに違うスープであって、スプーンで飲むと味噌汁でなくなる。しかし、透き通ったお吸い物なんかの場合は、スープと呼んでも許せる気がする (あんた、勝手!)
シアトルでは、お箸が最初からテーブルに用意されているレストランが普通だが、田舎町の日本食レストランでは頼まないともらえないことがある。私の日本人的思考回路の「いちいち説明しなくても分かるだろう」という思いで「(夫と私に)お箸を下さい」とお願いすると、外見で判断された夫はお箸をもらえず、私だけがもらうことも多い。すると夫は明らかに不機嫌な顔と声で「僕のは?」と聞く。
汁気をたっぷり含んでお箸では食べにくい丼物のご飯なんかは私でもスプーンで食べるのに、夫は頑としてお箸で食べる。自分からお箸を頼んだからって意地になってないかい?それぐらい「日本食はお箸で」というこだわりがあるなら、ご飯は左側に置いて欲しい。
留学時代に家畜の餌のようなカフェテリアの食事を食べていた頃のこと、週に1度は必ず登場する献立に、スパゲティがあった。ある日、フランス人留学生2人がそのスパゲティを食べようとしていたのだが、私のようにフォークとスプーンで食べるもんだと当然のように決めかかっていたところ、彼らはフォークを持ったと思ったらそれを左手に持ち替え、右手にはなんとナイフを持ったのだ。
「ど、どうやって食べるの?」
身を乗り出し凝視する私に彼らは至って平気で、パスタを肉のごとく切り刻んだ後、フォークを右手に持ち替え、それですくっておもむろに食べ始めたのだった。
「肉じゃないんだぞー」
カルチャー・ショックだった。スパゲティは、フォークにくるくると巻いた腹巻き状態で食べるものとしか私の脳内辞書には書いていなかったから。子供が生まれてからは、彼らを真似て麺をナイフで短く切ってから食べさせているので、もうとっくにカルチャー・ショックではなくなったのだが。
世界中に数え切れないほどの食べ物があるように、数え切れないほどの作法や習慣があり、また各家庭によって違うのだからおもしろいと改めて思う。異なる環境で育った私達夫婦のように、お互い譲り合ったり押し付け合ったりしてまた新しい習慣が生まれ、やがて子供達はそれをまた自分達の伴侶に押しつけたりするのだろうか。
これだけこだわった私が言うのも変だが、結局のところは作法なんかを気にするより、今日もみんな笑顔で「いただきま〜す!」「ごちそうさまでした〜!」と楽しく食事ができたらそれでいいのかもしれない。
「煮魚なんておいしくない!ピザがいい!」
煮魚と一緒にこげるまで煮てやりたい文句の声が聞こえてくる。
「ほんなら、何も食べるなー!」
「じゃあ、ごちそうさまー!」
「ごちそうさまっつーのは、何かを食べた後に言うもんなんじゃーっ!」
今日も我が家の食卓は、作法も習慣もへったくれもないのだった。
(2005年4月)
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