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1996年にシアトルに引っ越してきたが、まだ「アメリカはこれだから・・・」と、外からアメリカを見ている。アメリカ人の夫も、「日本だとこうなのに〜」という妻の愚痴にも慣れた様子。もちろん、たまには家庭内日米摩擦が生じることもあるが、能天気で幸せな、2児の母である。
第2回 : 言語習得法
「オゥチャアァ、オゥチャアァ」
今でこそこうしてちょっと癖のある発音で日本茶を注いで周る機内食サービスがあるけれど、私が留学のために初めて乗った飛行機では、そのようなものは一切なかった。もちろん、日本語を話す乗務員もいなかった。
下手な英語でも通じやすいという理由だけで、飲みたくもないのにアップル・ジュースを選び、機内食は言いやすい方(たいていチキン)、というレベルである。今は英語が上達したからではなく、年齢相当に厚かましさも身に付いたおかげで、あらゆる注文をつける手強い客へと成長したが、ヒヨコのようにうぶ毛ふさふさだった当時の私は、5人席のど真ん中に座らせられ、ぷるぷる小刻みに震えていた。
あれは絶対に個人的な意地悪だったとしか思えないほど、その飛行機の機長は着陸がえらく下手だった。緊張と疲れでうぶ毛が完全脱毛しそうになっていた私が、グラ〜グラ〜と何度も繰り返される下降に耐えられるわけがない。英語でどう説明するかさえも気にしていられなくなり、遂に乗務員を呼び出すボタンを押すことに。
「ビビビィイイイイッーーー」
とボタンを押し続けているのに、だーれも来てくれない。信じられない。臓器が全部口から出そうだと言うのに! 飛行機に1度乗った人なら誰もが知っている、いや、常識のある人なら分かるはずだが、飛行機が着陸態勢に入ると、客員のみならず乗務員もシートベルトを着用する。が、私は乗務員は最後まで立ってサービスをしていると信じて疑わなかったのだ。
「あぁもうダメ。誰でもいいから助けてっ」
しかし、ふと横を見ると、4席先の窓の外に建物が見えるではないか。あとたった1cmで足が地面に着くのに、屋根に必死でしがみつき「落ちるー、助けてー!」と叫ぶサザエさんになっていた私。窓のない5人席のド真ん中になんて、2度と座るまいと決心したものだ。空港のチェックイン・カウンターで早めに確認すれば、席の位置も変更してもらえると知ったのはその数年後。早く教えて欲しかった。
飛行機が地面に触れる音を聞くなり、うぶ毛も一気に生え戻り、脂汗も退いて行った。さっきまで生死の境をさまよっていたはずなのに(少々大げさ)、「バーイ」と笑顔で乗務員に挨拶して降りる私。本心を隠して愛想が良い、まさに典型的な日本人ご到着である。
本当にヤレヤレな騒動だったが、例え乗務員が私の席に来てくれたとしても、果たして私は英語でうまく助けを求められたのだろうか。結局は助けがなかったのと同じだった気がするが(悲)、窮地に陥った時の自分の英語も聞いてみたかった。恐ろしく意味不明だったに違いない。
苦手な発音の1つに"R"がある。普段は意識してきちんと発音するように心がけているが、窮地に陥った状態では哀れだ。ただでさえ "Lolipop" のことを "Rolipop" と発音してしまう私である (これを初めて聞いたとき、旦那は5分ぐらい笑い転げ窒息していた。失礼な)。この発音は意識すればするほど難しいのに、手のやける子供達に「おりゃ〜、どりゃ〜、こんにゃろ〜」とぶち切れる時は(注:ここまで悪態はつきません。近いけど)、見事なまでに巻き舌の関西弁を操る私。どうして英語に生かせないのかと、ずっと疑問である。
どこをどうひっくり返しても日本人にしか見えない私でも、多種多様な人種が住むアメリカでは「英語が話せて当たり前」と思ってぺらぺら話しかけてくれるアメリカ人が多い。気さくな人柄が感じられて、今となってはとても嬉しいのだが、アメリカに来たばかりの頃はへきえきした。「どうして他人の私に用もなく話しかけてくるんだ、外国人と思えば目をそらす日本人とこうも違うのはなぜだ」とよく自問していたものだ。それはまさに、突然繰り広げられる街角英会話教室だった。でもこうやって、身の程知らずにいろんな人と話をしたせいで英語も少しは上達し、そしてとんでもなく勘違いな話をしても平気という度胸がついたのかもしれない。
勘違いといえば、アメリカ人の友達が
「日本人は滅多に "swear" しないわね」
と話しかけてきた時だ。
「そうね、信仰の薄い日本人が多いからね」
と答える私。
「??・・・・(一瞬間があった後) ガーハッハ、ギャーハッハ」
突然バカ笑いする友達。何がそんなにおかしいのか最初は全く意味不明だったが、 "swear" には「誓う」という意味以外に「ののしる」という意味があることを、この時初めて知った。教科書で習うよりも、恥を伴う実体験により語学力は飛躍的に伸びるに違いない。
確かに英語には、日本語よりも "swear word" が多いように思われる。子供にも絶対に言ってはいけないと教える言葉が多い。
「ぼくはもう大きいから、言ってはいけない "F word"(F から始まるアノ言葉)も知ってるよ」
と、自慢する子供がいた。
「ほぉ?なら言ってみな」
小さな胸をググッと張り、彼は言い放った。
「ストゥーピッド!(stupid!)」
少年よ、大志を抱け。
言語とは、まさにこうやって習得するものなのだ。
(2005年3月)
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