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1996年にシアトルに引っ越してきたが、まだ「アメリカはこれだから・・・」と、外からアメリカを見ている。アメリカ人の夫も、「日本だとこうなのに〜」という妻の愚痴にも慣れた様子。もちろん、たまには家庭内日米摩擦が生じることもあるが、能天気で幸せな、2児の母である。
第1回 : 初めてのアメリカの味
初めてアメリカに足を踏み入れた日。それはもう、サハラ砂漠の地平線を辿っても届かない遠いかなたの日。 今思い返すと恥ずかしさがいっぱい溢れ出してくるが、若さだけで生きていたような当時の私は、羞恥心なんてものをアリの汗ほども感じていなかった。 若さとはエネルギーであり情熱であり、そしてとんでもなく恥知らずなものである。時差ぼけでボロボロのはずなのに、空港に着いた途端、「あんたの頭はバブルヘッドか!」というほどきょろきょろし通しで、片側5車線の高速道路に唖然とし、「すんげぇ〜、未来都市みたい」(田舎者)と思ったのは覚えている。
「イエス」「ノー」を巧みに使い分け、奇跡的にホテルの一室に落ち着いたものの、数時間もまともな食事を摂っていないことに気づいた。しかし、アメリカで外食することは、裸でアマゾンを探検することと同じくらいに恐ろしく思え、ルーム・サービスなど頼もうものなら食事を運んできた途端にポケットから銃がバキューン!私のアメリカ生活は3時間で幕を閉じ・・・ってことにもなりかねない。ベッドの下に所持品をすべて隠し、恐る恐る廊下に出てみると、自動販売機があった。
「おぉ、今晩はジュースでしのごう」
と思いきや、持ち合わせの銀色コインがどう見てもジュース1本分の額に達していない。
「いやー、アバウトなアメリカだもの、もしかしたら大丈夫かも〜」
・・・言い忘れたが、若さとは無知、つまり究極に幸せな思考回路でもある(持論)。とりあえず持っていたコインを入れてみた。しかし、
「ほらね、出たわよ〜♪」
ってなわけにはいかなかった。当たり前である。アメリカの自動販売機であろうと日本の自動販売機であろうと、コインの判別はできるのだ。仕方がない、コインを払い戻してもらおうと釣り銭ボタンを押すが、ウンともスンとも言わない。
「おいーっ!私の所持金全額(コイン部門だが)、かっさらうなー!」
と怒っていると、いつの間にか背後に大男が立っていた。いつからそこに立っていたのか知らないが、私にとっては突然のことで、恐怖以外の何ものでもなかった。勝手に窮地に陥っていた私だが、その大男は複数のコインを並べた手を平静に差し伸べ、何か話しかけてきた。
「は、はぁ??」
必死でリスニングしてみると、
「どのコインをどれだけ入れたの?」
と言っているようだ。
「あのね、これ!」
私が彼の手のひらのコインを指差そうとすると、彼はさっと身を引き、私たちの間に緊迫した空気がピキーッ。なんと、この小娘が自分の金をすべて奪うのではないかと彼は恐れたようである。そりゃあ、人の所有物にはむやみに触れるべからず、ましてやお金に触れるなんて御法度ってことは知っている。でも例えばこれが日本で、おじさんが
「どのお金を入れたんか教えてみー」
って小銭を差し出したら、
「これやねん、これこれ」
って平気で触りますがな。
「アメリカって怖いなあ。親切にしてあげたくても、常に自分の身の安全を考えて行動しなきゃいけないんだ」
大変勉強になった。
何はともあれ、結局彼はファンタ・オレンジを1本ご馳走してくれ、私は翌日の午後までカフェイン&シュガー・パワーのみで生き延びることができた。そんなわけで、私の初めてのアメリカの味はオレンジ味の炭酸飲料である。
アメリカで炭酸飲料と言えば、80歳にはなろうかというアメリカ人のおじいちゃんがグビグビッと炭酸飲料を飲み干す様子は、かなりショッキングだ。アメリカで初めてこの光景を目の辺りにした時には、そのおじいちゃんの首もとに「良い老人はまねをしないように」という字幕が浮かんだものである。日本のおじいちゃんがこんなことをしたら、神様からのお呼びがかかるだろう。アトランタのコカ・コーラ本社を訪問し、コインを入れなくてもボタンを押すだけで缶入りコカ・コーラが出てくる自動販売機に感激し、鞄にありったけ詰め込んだ若かりし日が甦るが、あの会社の倉庫にはどれほどのカフェインと砂糖が積まれているのだろうか。最近、某雑誌でコーヒー豆のカフェイン除去作業の写真を見た。除去されたカフェインは、薬品会社と飲料品会社に売却されるのだそうだ。私がジュース1缶だけで24時間元気だったのは、単に私の若さと新天地での興奮だけではなかったのだろう。
小学校時代、魚の骨をコカコーラに何10日も漬けるとどうなるかという気が遠くなる夏休みの課題を発案した子がいたが(8/31に徹夜で泣きながら宿題をする私には信じがたい内容だった)、その骨がすっかり溶けてしまったという結果にはたまげたことを思い出す。この彼の実験により、今でも「炭酸ジュース=ボンレス」と記憶に留めることになる(関係ないが、ニッポンハムのボンレスハムが懐かしい)。毎日こつこつと研究した努力君に感謝しなければなるまい。
このボンレス方程式が生身の人間でも証明されたと思ったことがある。それは、アメリカのある学校でジュースの自動販売機を撤廃したところ、生徒の成績が伸びただけでなく素行の面でも顕著な効果が出たというニュースを聞いたときだ。毎日水のように炭酸飲料が飲まれているアメリカ。そんな食生活を日本に輸出して欲しくないが、炭酸入りコーヒーや炭酸入りエッグノッグが、いつの日か世界中で流行するだろうと今のうちに予言しておきたい!炭酸入り煎茶は決して頂きたくないが、煎茶に砂糖を入れて飲むアメリカ人を目撃したことがあるので、決してあり得ない話ではないかもしれない・・・。
(2005年2月)
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最終回
さらばシアトル!
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第16回
アメリカの長〜い夏休み
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第15回
結婚式とお葬式
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第14回
観光したい!
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第13回
泥棒御用
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第12回
アメリカのタブー、夫婦のタブー
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第11回
アメリカのトイレ分析
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第10回
カミングアウトしまっせ
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私の決意−人種差別を体験して
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第 8回
薬と予防接種はスーパーで
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ヘルメットをかぶるバックシート・ドライバー
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第 1回
初めてのアメリカの味
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