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スノー・スポーツを安全に楽しむための「雪崩(なだれ)対策教室」

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雪崩
川合由佳子さん

執筆者:川合由佳子さん

1年を通じてさまざまなアクティビティが楽しめるのはワシントン州ならでは。「何でもやってみよう!」という気持ちで、いろんなことにトライしています。

川合さんのプロフィールはこちら

Snow bunny の皆さん、いかがお過ごしですか?
雪不足だった去年の冬の分も取り戻そうと、私も今年は大忙しです。

雪崩

冬になるとよく聞く雪崩(avalanche)の事故。

スノーシューアーだけではなく、バックカントリーやクロスカントリースキーヤーなど、雪山に行く回数が多い人ほど雪崩に遭遇する機会が多いわけですよね。

私もスノーシューを楽しむようになってバックカントリーへ行くようになり、雪崩は他人事ではなくなりました。

そこで、毎年楽しみにしているスノコルミー・パスのスノーシュー・ツアー、今回は US Forrest Service が The Northwest Avalanche Center(NWAC)とパートナーを組んでリードしてくれる Avalanche Awareness Class に行ってきました。

今回のツアーの先生は、NWAC に属している、アウトドア・カンパニー KAF Adventures のオーナーのミックさん。まるでお菓子屋さんを丸ごと買った子供のように、アウトドアが大好きなあまり仕事にしてしまったという、自由奔放な山男。その上、テレビに出られそうなくらいのカッコよさ。

雪崩

ミック先生

いろいろな雪崩の情報を、かっこいいミック先生から学ぶことができるなんて・・・

Ladies! こんなにためになるクラスはありません(笑)。

レンジャー・アシスタントは、私とは年に一度必ず会う、友達のような存在のローリーさん。しっかりしたお姉さんです。

雪崩が起こる原因

「専門家の私達でも、いつどこで雪崩が起こるかをぴったり予測することはできません。なので、私たちができることは、できるだけの情報を得ること、そして情報を得るための知識を得ることなのです」

雪崩が起こる原因には大きく分けて3つの理由があります。

1)傾斜(steepness)

一番雪崩が起こりやすい傾斜というのは30~45度です。25度以下では低すぎて雪崩はほとんど起こりません。逆に、それ以上の傾斜では高すぎて雪が積もらないわけですね。

行く予定にしているトレイルの等高線地図(contour map:a topographic map on which the shape of the land surface is shown by contour lines, the relative spacing of the lines indicating the relative slope of the surface)を事前にチェック。線と線の間が狭い場所は傾斜が高いなど、線の幅を見ることによって、傾斜の高さを見ることができます。行きたいトレイルが30~45度に当てはまる場合は行かないと決めること。

雪崩

トレイルの等高線地図をチェック

最近は携帯の地図アプリもたくさん出ていますが、地図をプリントアウトする人もまだまだたくさんいます。

いつも "be conservative"(慎重な態度)を心がけ、一番安全なルートを決めましょう。

2)雪の重さ(weight)

大量の雨や雪が降った後は、雪が重たくなっていますし、その後、温度が下がれば氷の板になっている可能性があります。ということは地面の雪が不安定な状態になっているということですね。

歩いているとき、「やけに雪がポールにくっつくなあ」と感じたら、それは雪が水分をたくさん吸って重たくなってきているということです。

ミック先生がポールを積もった雪に突き刺し、チェックし始めました。

「一番上の層は昨日降ったばかりの新しい柔らかい雪、真ん中の層はちょっと硬くなっている先週の雪。一番下は、だいぶ前に降った雪に雨が降ってカチカチに凍って氷になっているね」

雪の層がどうなっているかがわかったので、今度は小さい崖の縁で、積もった雪がいったいどの辺から不安定になって崩れ落ちるかテストしてみました。

雪崩

不安定になっている雪をチェック

このテストの結果は、大きな山を登っていくときにも使えます。

3)Trigger (発生原因)

吹いてくる強い風とか、snowmobile がよく通るトレイルで振動が激しいとか、いろいろな発生原因が考えられます。

出発前には絶対に天気予報をチェックしましょう。

15mph 以上の速さの風により、固まっていない、大量の柔らかすぎる積雪ができてしまいます。

天気がいいからといって、安心することはできません。嵐が去った後の最初の日に雪崩が起こる可能は統計上、かなり高いのです。それに、急激な天候の変更によって、雪の状態が朝は安定していたのに、午後は急激に変化して不安定になるなんていうのはしょっちゅうです。

雪崩の種類

雪崩には2つの種類があります。

1)点発生雪崩(loose snow avalanches)
寒くなって、さらさらした雪が大量に降ると、雪が固まりません。なので、一か所で雪崩が起こると、それがどんどん大きくなっていきます。

2)面発生雪崩(slab avalanches)
雪は時間が経つとくっつきあい、層を作りだします。この層をスラブ(slab)と言います。その層が風や温度の変化によって動いて雪崩を発生させます。屋根に積もった雪のスラブが下に落ちるのをイメージしてください。ものすごい破壊力ですよね。

常に自分の周りで起こっている変化に対して注意を払い、自分に対するリスクをできるだけ少なくすること。ミック先生が雪のテストをしていたように、自分で情報を収集し、安全性を何度も確認することが大切です。

雪崩に対応する方法の一つに、危ないと思われるトレイルを渡るとき、グループ全員で固まって歩かないというのがあります。私たちも、クリークの上に雪が積もった感じの危険なトレイルを渡る時、3人づつの少人数グループになって渡る練習をしました。こうすれば、歩いてるチームが雪崩にあっても、待っていたチームが助けに行けますからね。

ランチの時間になり、先生が「この辺で休憩しよう」と提案。

立ち寄ったスポットはとても景色がいいのですが、オープンスロープが目の前で、いかにも雪崩が起こりそうな場所。

生徒の一人がミック先生に質問しました。

「先生はこの崖の前のトレイルを歩くのは、怖くありませんか?」

先生の答えは「いいや、大丈夫だ。どうしてだと思う?」

レクチャーが始まりました。

「それはちゃんと周りの観察(オブザベーション)をした結果さ。見てごらん、周りに生えている木が倒れた気配がないってことは、この辺で雪崩が起きていないってことだよね。ごろごろした雪もないだろう?」

先生は先ほど「雪崩は同じ所で起こることが多い」という話をしてくれたばかりでした。

「それに僕らがいる所は木に囲まれているし、あの崖の上にできているつららから水が垂れてない」

木が多い所では、オープンスペースなところよりも雪崩が来ても雪が弾かれることが多いですし、つららから水がしたたっているような情景を見たら、温度が急に上がっているので、雪も溶けてきていることが考えられますね。

「観察(オブザベーション)の力をつけることが何よりも大切なんだ。それから自分の直感(instinct)というのは結構当たるものだから、危ないと思ったら、たとえグループの誰かが強硬手段に走っても、自分は "NO" ときちんと言えるようにしよう。何事も、自信過剰が一番怖いね。僕に雪崩が起こるはずがないなんて、なんの根拠もないことを信じないようにね」

先生は、自然の中にある雪崩のヒントを探し続け、いつ何が起こっても大丈夫な準備をいつもしているんですね。さすがです。

avalanche rescue gear

雪崩

avalanche rescue gear を使いこなそう

雪崩に対応するのにもう一つの大切な方法として、avalanche rescue gear を使いこなせるようになることです。

本当であれば、雪山に繰り出すすべての人が
beacon
sectional probe poles
shovel

を携帯すべきなのです。

ランチの後、ミックさんとローリーでギアの使い方のデモンストレーションしてくれました。

生徒たちが滝の写真を撮っている間に、ミックさんは隠れて自分のバックパックを雪の中に埋めました。彼以外、どこにバックパックが埋まっているのかを知りません。二人のビーコンを捜索モードに切り替え、ディスプレイを読みながら、埋まったバックパックの場所を探します。

そして、ここだとわかったらプローブ(Probe)を組み立て、周りの雪を刺しながら、探し出します。

雪崩

「シャベルで掘り出せ!」

よし、ここだ!シャベルで掘り出せ!
やった!埋まっていたバックパックが見つかったよ!

本当に人が雪崩に巻き込まれたところを目撃した場合、その人を助けるには15分しかありません。助けを呼びに行ってる時間なんてないのです。

あなただけがその人にとっての頼みの綱なのです。

自然と上手に付き合っていくには、情報収取の仕方を覚えること、そして情報だけでなく、実際にその知識・道具を使えるように普段から練習することです。

情報収集の大切さを教えてくれたこのクラス、ツアーの最後にレンジャーのローリーさんが、

「情報が必要だったらレンジャーオフィスにいつでも寄ってちょうだい。私達が喜んでお手伝いするわ。電話してくれてもいいわよ」

こんな素晴らしリソースを使わない手はないですね。なんともうれしいことです。

楽しいバックカントリー・スポーツを楽しむためには、きちんと雪崩のことを学んで、最悪なことが起こった場合に備えることが、私たちのできる精一杯のことではないでしょうか?

最後の最後にミック先生に質問してみました。

「ミックさんは実際に雪崩にあった人を助けたことがあるりますか?」

彼の答えは

「いや、一度もないんだ」

雪崩に一生あわずに済めばこんなに幸せなことはありません。だけど、本当にその時が来てしまっても、ミックさんが助けに来てくれたらうれしいなあ(笑)。

Happy snowing!?

便利なリンク

National Avalanche Center: avalanche.org/national-avalanche-center/
American Avalanche Association: www.americanavalancheassociation.org
Avalanche.org: www.avalanche.org
Discover Your Northwest: www.discovernw.org

掲載:2016年2月 更新:2021年12月

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