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レストラン・レビュー
  Unionシアトル料理界に新風を吹き込む  
彩りのよい盛り付け。無駄のない、洗練された味わい。口の中に残るすばらしい余韻。シンプルながらワンランク上の小皿料理を楽しめる 『Union』 は、叩き上げの料理人、イーサン・ストウェル氏(30)がオーナー・シェフを務める話題の店。スペイン料理のタパスに始まり、いろいろな小皿料理がシアトル各地で楽しめるようになって久しいが、昨年10月にダウンタウン・シアトルにオープンした同店は、同年12月にキャピトル・ヒルにオープンした 『Lark』 と共に、シアトル料理界に新風を吹き込んでいる。

毎日替わるメニューには、旬の食材をふんだんにとりいれた料理が並ぶ。取材当日のメニューは、サラダやパテなどのファースト・コース5種類($8〜$12)、魚料理やスープなどのセカンド・コース5種類($9〜$12)、雛鳥のグリルやキング・サーモンなどのアントレ5種類($16〜$28)、レ・フレールやブルー・シェーブルなど6種類のチーズをサラダやへーゼルナッツと味わうセット($10)、ブランデーでソテーしたレーニア・チェリーやチョコレート・ミント・フランなどのデザート5種類($7)。価格はダウンタウンにしては抑え気味。特に、ランチ・ディナーともに楽しめるテイスティング・メニューはかなり手ごろで、ランチならランチ・メニューから3種類の料理を選んで1人20ドル、ディナーならアミューズからデザートまで8品のコースが1人48ドルとなっている。

高い値段をつけて来客数を抑えるよりも、値段を抑えて来客数を増やしたいという気持ちからこの価格帯を選んだというストウェル氏は、「来客数が多ければキッチンが大変になるのは事実。だけど僕は大量の仕事をこなすことをいとわないし、がっぽり儲けようなんて思っていない。いい食材でいい料理を作ることができ、スムーズに経営していけるだけの収入があれば満足なんだ。もっと冒険をしたいし、もっとたくさんの人に僕の料理を食べてもらいたいからね」と語る。

オリジナリティが溢れるメニューにはどうしても目移りしてしまうが、単品でもテイスティング・メニューでも、新しい味を発見できるのは間違いない。"Baby Turnip Soup" ($9)は若カブのスープだが、真ん中にスプーン一杯分ほどのウサギのコンフィ(肉をその脂で煮てそのまま保存したもの)が添えられている。カブとウサギの肉はこんなにも相性がいいのかと驚かされながら、じっくり味わってみる。また、"Seared Ahi Tuna" ($12)は、表面だけを焼いた新鮮なマグロをソラマメのサラダとリグリア産のオリーブといただく一品。シアード・アヒ・ツナはシアトルでは既に一般化しているが、この組み合わせは新しい。マグロのプリプリした食感とほどよい硬さに茹でられたソラマメのほんのりした苦味が、50年物のバルサミコ酢としっとりと馴染むところは絶妙だ。また、雛鳥のグリルを旬のモレル・マッシュルーム(アミガサタケ)と雛鳥のレバーをベースにしたソースといただく "Grilled Squab" ($16)は、小さな雛鳥の肉が外側はパリッと、中はしっとりと焼きあがっており、細やかさが感じられる。皿に残ったソースもパンをつけて食べてしまわないと後悔するだろう。デザートの "Brandy Sauteed Rainier Cherries" ($7)は、ブランデーでソテーした新鮮なチェリーをバニラ・アイスクリームと食べる。チェリーのソテーというとジャムのように煮込んだものを想像するかもしれないが、生で食べる時の食感が十分に残り、アイスクリームとあわせても上品な甘さに満足感でいっぱいになった。

とても気さくなイーサン・ストウェル氏。

"Grilled Smoked Scottish Salmon with Avocado Puree and Herb Salad"
 
よい食材を使うこと、そしてその食材がもともと持つ風味を十分に引き出すことにどこまでもこだわるストウェル氏の料理は、濃い味付けや脂っこさ、量の多さが特徴のアメリカ料理とは対角をなす。意外な食材を組み合わせ、ここでしか食べられない味を生み出すクリエイティブさは、その生い立ちに深く関係があるようだ。


父ケント・ストウェル氏の影響

ストウェル氏は、1977年から現在までシアトルのバレエ団パシフィック・ノースウェスト・バレエのアーティスティック・ディレクターを務める父ケント・ストウェル氏と母フランシア・ラッセル女史の次男として、ドイツで生まれた。共に一流のダンサーとして活躍した両親は、ドイツのバレエ団でアーティスティック・ディレクターとして多忙な生活を送っていたが、父ストウェル氏は近所のファーマーズ・マーケットなどへ出かけては新鮮な食材を購入し、シンプルだが食材の風味を生かしたサラダやグリルド・チキンといった家庭料理を適度な量だけ食べることを好んだという。
もちろん、ピザやハンバーガーが食卓に上ることも、苦しくなるまで食べる習慣もない。「たいていのアメリカ人はたらふく食べること(be stuffed)を好む傾向にあるけれど、父を始め、僕の家族はそれとは正反対。適度な量を食べることで気持ちも満足するし、不要な物が入っていない、クリーンな味が好きなんだ。いいシェフは、シンプルな料理でおいしさを引き出せるもの。濃い味付けにしたり、大量に食べたりする必要はないんだよ」1977年にシアトルに引っ越してきてから今も、父ストウェル氏はできる限り自宅で料理をするという。


料理人として

ダンサーになることを強制されることなく、自由に人生の選択をすることを勧められたというストウェル氏は、「芸術というリベラルな世界にいる両親は、これまで一度も何かを強制したことがない」と言い、「実は僕もバレエを2〜3年やってみたことがあるんだ」と苦笑いしながら告白した。「僕はバレエを好きにならなかったけど、兄はバレエが大好きになった」 その兄クリストファー・ストウェル氏はプロのダンサーとして活躍し、現在はオレゴン・バレエ・シアターのアーティスティック・ディレクターを務めている。

バレエではなく料理を選んだストウェル氏がプロフェッショナルとして料理を始めたのは22歳の時。父の影響で食材に関する豊富な知識を身につけた同氏の教科書は、自身が集めた600冊以上に及ぶ料理の本だった。写真を見るだけでなく、一語一句すべて読んで学んだが、プロになろうと決めた時も驕ることなく、「自分の知識を再び活性化させて、新たな知識をとりいれる必要がある」と、フィッシュ・マーケットやファーマーズ・マーケット、ミート・マーケットなどに出かけ、食材に関する質問をして勉強を続けた。そして、シアトルの Nell's Restaurant、Painted Table、Ruins やアトランタの Seeger's といった知名度の高いレストランでの修行を経て、自分の店を持つという夢を実現させたのが昨年10月。地道な努力のかいあって、同氏の評判は遠くニューヨークまで届き、来春にはジェームズ・ビアード・ハウスで晩餐会を取り仕切ることになっている。「ナーバスなんかにはならない。とてもエキサイティングだ。春にはいろいろないい食材が出てくるから、きっと楽しいイベントになると思うよ」と言うが、実は誉められることは嬉しくも戸惑いを覚えるという。「僕は "自分の料理はすばらしい" と自慢するような気持ちはない。もちろん、自分の料理に自信はあるけれど、もっと謙虚な気持ちなんだ。なぜなら、僕の料理は自分が食べたいように作る小皿料理で、食材そのものが持つ風味を大切にしたシンプルな料理だから。」

外食をするということにおいて最も大切なのは、来店するゲストが楽しい時間を過ごすことと言い切るだけあって、料理だけでなく、サービスはもちろん、リラックスできる空間にもこだわり、来店するゲストもいい気分であること、よい時間を過ごそうとしてくれることも必要と考える。「レストランでよい体験ができるかどうかは、そういったいろいろな要素があわさって完成するものだと深く信じている。この記事を読んでくれる日本人のみなさんにも、僕の店でよい時間を過ごしてもらえたら嬉しいね」

1つの山を乗り越えた安堵と風格を感じさせる、すてきな笑顔だった。

(取材:2004年6月)
データ


Union
ユニオン


1400 1st Avenue
Seattle, WA 98101
>> Map
>> バス路線 (Metro's Trip Planner)

Phone: (206) 838-8000

公式サイト: www.unionseattle.com

【営業時間】
ディナー 
毎日 5pm-11pm
バー 
毎日 5pm-1am

【支払い方法】
VISA、MC、AMEX、現金

【駐車】
有料駐車場・路上駐車

【その他】
メニューは毎日変更
予約: おすすめ

(2006年9月現在)
※掲載した情報は予告なく変更される場合があります。


※ジェームズ・ビアード
"アメリカ料理界の父" と呼ばれたジュリア・チャイルドと共に有名な人物で、"アメリカにおける美食の父" と呼ばれる。同氏の死後、その功績を称え、ジュリア・チャイルドらが発起人となり、優秀なシェフの育成に奨学金を提供するために創設されたのが、ジェームス・ビアード財団(James Beard Foundation)。現在も同財団が運営するレストランで、全米から招待されたシェフが晩餐会を開催し、その売上金を同財団の運営費として寄付している。
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